不合格+お役所仕事=やる気
花森遊梨(はなもりゆうり)
難関試験はやる気アピールのフィールド
「錬金術師検定試験一次試験 合格者なし よって以降の試験中止」
錬金術師検定試験の結果発表と共に会場に快哉が響いた。
試験不合格に興奮するというなかなかレベルの高いMばかりが集まっているわけではない。
集まるのは小儀礼で身なりの良い男女や、半裸の腰巻き男や踊り子のような格好の男女の両極端。
彼らは皆、自分のやる気という不安と並んで形のないものを目に見える形に錬成する機会を見つけ、自分のやる気を形にすることに成功したのである。
そう、難関の試験に曲がりなりにも挑戦しているっす‼︎というやる気を可視化したのである。
このわたし、貴族の跡取りにして高等遊民のアリサもそんな一人であった。
錬金術師検定試験
各地方で年に一度実施される試験。
錬金に使える物質とか化学式をたくさん暗記のみで 実技試験も課せられ 試験期間は最終試験まで行くとほぼ一月に渡って実施される、合格者は0人の時も多く、よくて一割程度の難関である
肝心なのは各地の錬金学校で実施され、実施する学校にかなりの裁量があること
つまり、受験する地方によって、というか試験を実施する各地の錬金学校(の職員、特に校長)の人格次第で難易度が変わる。
「自分のように錬金学校を卒業していない輩に錬金術師の資格などやらん!」と受験者全員を落としてくるやつが校長なのでその地方で試験を受験すれば詰みということもあり、校長が落ちぶれた錬金術師で好色にして強欲にして品性下劣につき、特に理由のない不合格を受験者全員に言い渡すこれまた詰み試験…と見せかけて、校長の自宅に押しかけて金を渡すなり胸部や臀部を揉ませてやれば必ず合格できる(そこの校長は♀)という錬金術があまり問われない地方もある。
そして、中には錬金ギルドが言うから実施だけして流しとくかといった感じのところもある。
この私が受験したのはそんな錬金学校の試験であった。
この地方の錬金術師検定試験は夏の時期に行われる。そして錬金術師検定試験は合格者を出すと一月がかりになるになる、つまり夏休みが消し飛ぶのだ。
学校関係者からすれば、自分らが試験しなくても他所で勝手に試験して勝手に合格して勝手にやってくれる錬金術師の試験のために自分らの夏休みを棒に振るなんて絶対に避けたいのである。
そこでこの地方では夏休みに入る一週間前に一次試験を始め、夏休みになる数日前に「試験中止だけど合格者さえいなければ問題ないよねお兄ちゃん(意訳)」と一方的に掲示し、試験中止としてしまう。夏休みのために受験者の人生など顧みず試験の難易度さえ逆手にとって試験そのものを「終わらせる」というのは短絡的すぎて一種の爽快感すらある。
そんな姿勢だから、金の錬成に特に興味はないが、やる気をアピールしたいゴロツキや富裕層の高等遊民にとっては誠に「狙いどころ」となるのである。
そんなわけで、私は家族に単なる高等遊民ではないと自信を持ってアピールし、大手を振って避暑地に旅立てるというものだ。
親のすねをかじって遊んでいる?それはものの考え方次第。私のような高等遊民とは文化面も含めた国力の底上げに寄与しているの
私みたいに形のいい鼻や口の恰好といいい小さな頭部とすんなりした脚も、何代も何代もかけた贅沢と閑暇のなかからつくられたもの。つまりは選ばれしものの証よ
そんな余裕のある考え方ができないバーバリアンより稀少で、大事にされるべき人間なのよ。
錬金術師の勉強をダシにするのも今年まで、また避暑地で新しいネタを探してこないと
不合格+お役所仕事=やる気 花森遊梨(はなもりゆうり) @STRENGH081224
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