『駄作』
ユウグレムシ
ある遺跡で碑文が発掘された。
くさび型文字の溝に詰まった砂を作業員達がブラシで丁寧に払い落としてゆくと、古代の叙事詩が少しずつ姿を現したが、発掘作業の様子を覗き込んだ考古学者は冒頭部分をちょっと解読するなり眉をひそめ、金槌を振り下ろし、奇跡的にヒビひとつない状態で掘り出されつつあった石板をめちゃめちゃに叩き割った。
考古学者は言った。
「駄作。読ませようとする工夫が足りない」
碑文を破壊した考古学者にとって、どんな物語も自分のお気に召さなければ無価値だったのだ。作家など読者の奴隷としか思っていなかった。
好き嫌いや読みづらさはさておいて作者に寄り添い、物語の結末を見届けてやろう、という真摯な姿勢がもしもあったら、叙事詩を記した古代の人々の文化習俗や、物語に込められた想いを知る手がかりになったのに、ただ面白くないという勝手な理由だけで、歴史が石ころになってしまった。
碑文の裏には、石板が割れたとき発動する呪いの言葉が刻まれており、このあと人類は滅亡した。
おわり
『駄作』 ユウグレムシ @U-gremushi
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