第14話
それから数日。
領主軍の手当てや討伐した魔物の解体、辺境伯への説明などなど……全て片付けて日常に戻るまでに数日を要することとなった。
ようやくいつもの日常が戻ってきたある日、俺の部屋をノックする音が響いた。
「ヴェルト、今いいかな?」
「兄さん? それに姉さんも。どうしたの?」
「その……ヴェルトちゃんにお願いがあって……」
ふむ、お願い?
「簡単に言おう。ヴェルト、僕達に強くなる方法を教えてくれないか?」
「……もしかして、カルディネに手も足もでなかったことを気にしてる?」
はっきり言って、それはお門違いだ。
何しろ、カルディネは
「もちろんそれもある。だけどそれ以上に……『ヴェルトを差し出せ』と言われて、すぐに反論できなかったのが悔しかったんだ」
「もし私達にもっと実力があれば……抵抗できるだけの力があれば、ヴェルトちゃんを危険に曝すこともなかったのに!」
「だから、力が欲しい。家族を、領地を、自分の手で守れるだけの力がっ!」
なるほど。
二人とも、生半可な気持ちではないようだ。
兄ルフトも姉アイナも、同年代で比べれば魔法の腕はトップクラスだ。だが、先のカルディネとの戦闘で、その程度では足りないと痛感したのだろう。
前世では、単純に強くなりたいと弟子入りを志願してきた奴を全部突っぱねてきた。だが兄ルフトにも姉アイナにも、小さい頃から俺の面倒を見てくれた恩もあるし、それが家族への力になるのであれば願ってもない。
「二人とも、俺は厳しいよ?」
「楽して強くなろうなんて思ってないさ」
「もちろん、望むところよ」
「心配はいらないみたいだね。それじゃあ……」
魔改造といきますか。
「え? ヴェルトちゃん、勉強を始めるの?」
「もちろん。なんだと思ってたの?」
「てっきり魔法の練習をするのかと……」
ふむ、そういう発想になるのか。
確かに魔法の練習を重ねれば魔力量も増えるが、魔導書にある術式以上の威力は出ない。
つまり手っ取り早く強力な魔法を放てるようになるには、大量の魔力を消費するか、強力な術式を組むかのどちらかだ。
(俺が二人の魔導書に術式を書いてしまえば早いんだが……)
『それでは二人は成長しませんもんね』
目指すべきところは、二人とも自力で術式を組み、魔導書をパワーアップできるようにすること。
「父さん、相談があるんだけど」
「なんだ、ヴェルト?」
ルフト兄さんとアイナ姉さんに魔導書についてのことを教えているある日、俺は父フリードへと切り出した。
それは、俺が記憶を取り戻してからずっと思っていたことだ。
「父さんが聞いたら怒るかもしれないけど……俺は魔法学園には入りたくない」
「……それはどうしてだ?」
……てっきり、『何を言い出すんだ』と怒られると思ったが、父フリードは話を聞いてくれるのだろうか。
「理由はいくつかあるけど……何より、学園に行っても何も学ぶことがないんだ」
俺がイデアを完成させた時点で、少なくとも魔法に関しては全て研究し尽くしている。今更学園に行ったとて、何を学ぶというのだろうか。
「子供のくせに何を言い出すんだと思うかもしれないけど……騎士爵の息子のくせに学園にすら入っていないと思われるかもしれないけど、俺は自分でこの世界を見て回りたい」
これが離している間、父フリードは真剣な顔でじっと俺の顔を見つめていた。だからこそ、俺も真剣に、真っすぐに父の顔を見て言い切る。
「だから俺は……ルフト兄さんとアイナ姉さんに魔法を教えたら、一人で旅に出るつもりなんだ。お願い父さん、許可を———」
「あぁ、いいよ。行ってきなさい」
「えっ———」
許してもらえた?
こんなに簡単に?
「ヴェルト、お前の魔法の実力は異常だ。学園に入っても学ぶことがないなんて、俺が考えてなかったと思うか?」
「それは……」
「ついでにな、ルフトやアイナからも直談判されたんだよ。『ヴェルトは学園に入りたがっていないから、自由にさせてほしい』って」
「兄さんと姉さんも?」
「あぁ……二人ともヴェルトが大好きだからな。何にも縛られずに自由に生きてほしいんだとさ」
「っ……」
「だからヴェルト、父としてお前に言うことは一つ!」
「何……?」
「『行ってらっしゃい』、だ」
「っ……!」
俺は思わず、父の胸に飛び込んだ。
あぁ、なんだろう……家族っていいもんだな。
♢♢♢♢
月日は流れ、ついに俺が旅立つ日になった。
「何があってもヴェルトなら大丈夫だろう。好きに楽しんでこい!」
「ヴェルト、私達はここにいますから、寂しかったらいつでも帰ってきていいのよ」
「ありがとう、父さん、母さん」
「「ヴェルト!」」
「兄さん、姉さんも」
「ありがとう、ヴェルト。まさかヴェルトがこれほどの天才……いや、天才というのも足りないか」
「とにかく、ヴェルトちゃんのお陰で私もお兄ちゃんもすごく成長できたわ」
「もちろんこれからもね。だから……領地は僕らに任せて、ヴェルトは精一杯楽しんでおいで」
「ありがとう。でも、俺がいないからってサボらないでよ?」
「ははは、そんなまさか。むしろ次にヴェルトが帰ってきた時には僕の方が強くなってるかもしれないよ?」
「それはすごく楽しみだ」
挨拶もそこそこに、馬車に乗り込む。窓から外を覗くと、家族や使用人達が見送りのためにズラリと並んでいた。
……なんだか良いな、こういうの。
前世の俺は引きこもって研究ばかりだったし、こんな風に家族に見送られることなんて無かった。
俺も、せいぜい家に迷惑がかからないようにしないとな。それじゃあ――
――行ってきます。
─────────────────────
あとがき
というわけで、ここまで書いておいてボツにしてしまった作品です。この続きが全然思い付かなくて、止まってしまったんですよね……。
イデア→妖精
カルディネ→ヘビ
他にもイヌとかネコとか出して、獣化した美女に囲まれた旅にしたかったり……
極魔無双の最強賢者、千年後の世界では自重しない 風遊ひばり @Fuyuhibari
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます