一人多い

テレビの取材を受けたことがある人は分かるかもしれませんが、コンプライアンスがうるさい現在、インタビューでなくとも少人数の空間において顔を撮りたい場合は「撮っていいですか?」と声をかけるようになりました。


特に子どもはデリケートで、例えばDVを受けて逃げている親子とか、そういう配慮があって(なかったりもしますが)、なるべく声をかけるようになっています。


これはそういう風潮になった辺り、先輩が体験した話です。


違和感を覚えたのは編集していた時だったそうです。

夏休みのイベントで、保護者同伴の子どもが5人ほど参加している工作教室の取材に行った先輩は、人数も少ないので一人一人、記者と一緒に保護者に撮影許可を取ってまわりました。


何事もなく取材を終えて、当日ニュース用に編集していた時に、ふと画面に映りこんでいる保護者が気になりました。


画面に映っている子どもは5人、そして保護者は6人。


6人?


自分のデスクで原稿を書いていた記者を呼んで、編集画面を一緒に見ます。

この子の親はこの人、これはこの人…そうして結んでいくと、一人保護者が多いのです。


子どもが多いのであれば兄弟で参加しているんだなと思いますし、保護者が多くても両親が来ているパターンも考えられます。しかし、そこにいたのは全員母親でした。


保護者の友達か?いやそれにしたって……


白いワンピースを着た髪の長い女性は、にこやかに子どもを眺めていますが、誰と会話するでもなく、そしてどうにも我が子を見ているという雰囲気ではないと感じたそうです。


気味が悪くなった先輩と記者は、それでも念のため最後まで撮影した素材を見てみました。すると、どうやら映っているカットとそうでないカットがあるようで、最後の記念撮影にも彼女の姿はありませんでした。


何がなんだか分からないが、オンエアには乗せない方がいいだろう――


2人はそう判断して、そのニュースは放送されたそうですが、肝心の素材については誰かの手違いで消されたらしく、今ではオンエアのアーカイブしか残っていないと先輩は言っていました。そっちの方がいいだろうとも。

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本当にあったテレビカメラマンの怖い話 @ohanyan

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