第3話 休日
工事の音で目が覚める。時計の針は10時を回っている。もう一度目を瞑り、瞼の裏の淡い光をじっと見つめる。無限に広がる想像の世界に酔いしれる。気がつくともう一度眠りについている。2、3度繰り返し全身の力を入れ直す。
今日は土曜日、つまり何をしてもいい自由な時間だ。駄菓子研究部は土日は活動がない。独り暮らしの俺にとってここはまさに極楽浄土であった。シャワーを浴び、好きな音楽を聴き、MRゴーグルを装着して、エクスペンシングルズ81を見る。最新作82が来月公開だ。
爆撃から始まり、敵を銃撃、惨殺、エログロなんでもありだ。この非日常がたまらない。エクスペンシングルズの1番好きなところは、第1作目から今作まで全く主人公たちの家族構成、過去が明かされないところだ。最初から最後までとにかく戦闘、どこから見ても楽しめるし、何も考えなくていい。やりたいようにやり、やりたいように死ね。そう言われているようだった。
「しあわせ……」
しばらく映画を楽しんだ後、オンラインでゲームをする。
適当にご飯を食べ、MRゴーグルで野球観戦をする。今日は能力者ありの高校野球だ。
北海道のチーム対東京のチーム。どちらを応援する訳ではないが、見てて楽しい。バットを巨大化させ思い切り打つ。ボールは宙に浮くが、流石外野。飛行能力者がいるのでそのままアウト。そんなのが9回まで続く……
明日も休みなので、散歩に出かける。終電がなくなり人が少なくなってから外に出る。街灯に照らされまるで自分だけのステージに立ったようだった。全身から冷気を放つ妄想をし、目の前の敵をバッタバッタと倒す妄想。それは余りにも具体的で本当に目の前にニュースで見た能力者犯罪組織のようだった。
いや……妄想ではない……確かにニュースで見た。顔に十字架のタトゥー、サングラスに黒のコート、身長は2メートル近い確かに目の前には、対能力者対策課が追っている奴だ。こいつは幹部として指名手配もされている。
何も考えず通り過ぎよう。そう思いながら慎重に歩く。
「おい……お前能力者か……?」
背筋が凍る、さっきまでの妄想が本当だったかのように全身から冷気が滲み出る。怖い
「いえ、ち、違います」
こんな能力信じてもらえるわけがないし、ややこしくなるだけだ。怖い
「能力者の気がビンビンにするな」
「あのほんとに違くて」
「すれ違っただけでこの気配……お前政府の人間が?」
このバカ能力が!強いやつと勘違いされるだろ!つまり戦いになるだろ!てかならないだろ!なる前にやられるよ!
「だから!ちがぅぶひゃ!」
気づいたら宙に舞っていた。電柱に思い切り叩きつけられる。走馬灯のようなものはか頭の中を駆け巡らない。駆け巡る間もなく地面に叩きつけられた。
「いたすぎるだろ……」
余りの恐怖に何故か自分を俯瞰的に見ていた。これはやばな早く通報しなければ、だが来る途中に殺される。数十メートル先にカップルがいる。逃げ出してはいるが、どこかに電話している。とにかく生き延びよう。
「おい、政府の人間だろ」
「そうだ。俺は対能力者対策課だ。」
ただひたすら真っ直ぐに、1000年前から存在する大木のように俺は、堂々としていた。
「お前……」
「そこまでだ!」
ごつごつとした筋肉に確かな自信をつけてている男が指名手配されている男のの背後に立っていた。
「お前……!」
指名手配されている男が、言葉を発すると同時に強烈なパンチが繰り出される。刹那的な出来事だった。しかし俺の目には繊細でありながら、スローでコマ送りのように脳裏に焼きついた。
気を失った指名手配の男を拘束し、片手で担ぐ。
「大丈夫か?」
「ありがとうございます。」
「君も能力者か。よく戦わなかった。」
戦わなかったのではなく戦えなかったのだが、それは野暮だ。すぐにその場を離れて家の布団に潜りたい。そう切に願った。
「こいつを政府に届けてくる。気をつけて帰りな」
そういうと、ヒーローは空に消えていった。その後ろ姿は俺でなくても、いやこの世の万物全てが惚れる背中をしていた。
その夜、興奮と安心を繰り返し何度もあの瞬間を思い出した。夢を見たが、現実の方がよっぽど夢だったのである。
駄菓子研究部! 千尋 @chihiro-shounen
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