第2話 覚醒
「ピピピ……ピピピ……」
世界一嫌いな音で、目が覚める。前日に用意していた制服に着替え、歯を磨いて家を飛び出す。起きてから10分以内に家を出るのなんで容易のことだ。
電車に揺られること30分、学校に到着する。朝の電車は窮屈だ。何百年もの間それは変わらないのだ。龍人の能力があれば……
「光ちゃんおはよー!」
「おはよー」
挨拶を済ませて退屈な授業を受ける。
数学、歴史、国語、宇宙学、一通り授業を終え、龍人とともに、部室に向かう。
「部長お疲れ様です」
「部長お疲れ様です」
「おぉお疲れー」
流れで挨拶を済まして、席につく。挨拶をするだけで、した側とされた側の輪ができる。とても大事なことだ。
「今日は何します?」
「だからいつも何もしてないだろ」
代々受け継がれるお決まりのノリだ。何もしないをする。それが駄菓子研究部。
「そうだった」
「今日はこれだな」
そういうと、小分けになっているポテドチップスを出す。唐揚げ味……普通の塩味でいいなー。
「なあ、好きな能力手に入るなら何がいい?」
本来は無能力者で盛り上がる鉄板の会話。一昔前で言えば、無人島一つだけ持ってくなら何持ってくだ。
弱能力者も例外ではない。無能力者と同じく1番盛り上がる会話だ。
「僕はやっぱり飛行ですかね」
龍人は平和主義者だ。自由気ままに空を飛びたい。そう切に思っているのだろう。
「この学校にも数人いるよね」
能力者は人口の1000分の1、日本の人口は1億5千万人だから日本には能力者が、およそ15万人いる。その中でも飛行は上の方だ。
「個人差があるからなー、長時間飛べる奴もいれば速く飛べるやつもいるし」
「僕は遅くていいから、長時間飛んでたいなあ」
「光太郎は?」
「そうっすねー、斬撃を飛ばせる能力とか」
斬撃を飛ばす能力は言わずもがなトップレベルの能力だ。
「光ちゃん怖いよ……」
「こわいな!」
部長はツッコんでくれたが、龍人はまじにとらえていた。龍人のいいところが出ているな。
「冗談だよ、部長は?」
「俺はやっぱり透視かな」
「部長のえっち!」
部長はこう見えてエッチだ。いやメガネをしている人は大体エッチだ。諸説あり……
「なあ、話変わるけど覚醒ってほんとにあると思うか?」
覚醒……それは弱能力者の間で受け継がれる伝説。実はこんな能力が……‼︎的な事を、考える事で自尊心を保っているのだ。当然覚醒した人は未だいない。
「部長の能力じゃ覚醒しても強くならないんじゃ無いですか?」
龍人が正論をぶつける。
「部長の能力ってなんでしたっけ?」
「知ってるだろ」
「いや、忘れちゃいました教えて下さい」
「バナナの皮まで美味しく食べれる能力」
俺と龍人が爆笑する。
生まれたその日に能力者該当チェックをし、能力者であると診断されたものは、その後どんな能力か分からなかった場合、3歳から5歳を目処に様々なテストを行う。部長はそこで初めて自分の能力に気がつく。
部長はその時、天地がひっくり返るほどにウケたらしい。
「そんな能力聞いた事ないですって」
龍人は追い打ちをかけるように煽る。
「龍人の乗り物に絶対座れる能力だって、人のこと言えないだろ!」
「部長よりはマシですよ。満員電車だって絶対座れますもん。」
龍人の能力は確かに持っていて損はない。ほとんどの人が無能力者な世界でこの能力を羨ましがる人は確かに多いだろう。だが能力ガチャという、限られた人しか回せないガチャの中では間違いなくハズレである。
ちなみに龍人は学校から徒歩5分、つまり電車に乗る機会は少ない。
「まあ、俺も光太郎よりかはマシだ。」
そう。俺ほどのハズレを引いたものは世界中探してもいないだろう。
俺の能力は"能力者であると錯覚させる能力"。もう一度言おう。能力者であると錯覚させる能力……だ!。
これは果たして能力なのか?そう疑問に思うこと数千、数万回、いつかは開き直っていた。確かに国が俺を能力者だと認めたのだ。だから遠慮なく毎年、毎年くる能力者税も払ってやってるし、年に一度の能力者コンプライアンス講習も受けてやっている。
「いやいや部長、それこそ覚醒するとしたら僕が1番可能性ありますよ」
「覚醒したらどうなるんだ」
俺の能力が覚醒したらどうなるのか、どうなるんだ?てかなんなんだ能力者だと錯覚させる能力って‼︎
「斬撃を飛ばせるようになるとか?」
「光ちゃんそれは無理あるって」
「無理あるな……」
お後がいいところで、机の上のお菓子もなくなり帰る支度を各々始める。
「それじゃあまた」
挨拶を済ませて部室を出る。学校を出て部長と別れ、しばらく龍人と歩く。春風が心地よく全身を覆う。龍人は無言の時間が気にならない。存分に自然の恵みを味わえる。
龍人と別れ、電車に乗ること30分。龍人の能力を思い出しながら満員電車に揺られるのだった。
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