第十一話 君は……

「ほぇ? 君。喋れるの?」


 隣から聞こえた、気品の漂う声。それは間違いなく、フェンリルさんのものだった。


『? わ、私、喋れてますか……?』

「え、えぇ~っと……? 喋れてるよ……?」


 両者とも訳が分からなくて固まっているところに、


《はぁー。分からないのも無理ないですよね。仕方がないですね、説明して差し上げましょう》

「わんっ!」


 仕方がないってなによ……、アシストするのがヘレナの仕事だろうが。

 そう突っ込みそうになるけど、今この状況を理解しているのがヘレナだけ(ん? わんこさんもか……?)だから、ここは大人しく話を聞こう。


《じゃあ説明しますねーっ。現在、耕様には、『フェンリルの加護』の効果と、信頼スキルの影響が及ぼされています。どちらから聞きたいですかね》


 え、加護……? かっこよっ……! かっこいいけど……、楽しみは後にとっておく派なのでッ……、


「信頼スキルからで!!」


 僕がそう言うと、ヘレナは説明を始めた。


―――――――――――――――――――――――


 ふむ。信頼スキルには、生物からの信頼を得やすくさせる力と、もう一つ、ある程度の信頼を得た生物との意思疎通を微弱ながら可能にする力があったということか。


 ただやっぱりこれが微弱で、本当なら、単語がぽつぽつと伝わるくらいが限度なのだそう。


 じゃあ、僕らがあんなに流暢に会話ができていたか。これがフェンリルの加護に繋がってくる!


 フェンリルの加護は、その名の通りフェンリルからの加護なのだけど、加護を受ける条件が、フェンリルの長、または血族から認められる。といったもの。

 え、長? 血族? なんのこと……? と思う間もなく、これにはピンときちゃう。


 フェンリルさん!! 気品あふれる君だよね!! と、思ったんだけど……、そうじゃなくて、まさかのわんこさんが、長の子供だったらしい。


 これには僕もびっくり。こんなポヤポヤした子が長の子供だったということにももちろん驚いたけど、それより、どうしてそんな子がここに居るのか。


「フェンリルさん、君は事情を知ってるの? 知っていたら、教えてほしい」


 僕がそう聞くと、フェンリルさんは、決心したような顔をして、じゃれあう二匹のわんこさん視線を投げ、話し始めた。


『私達フェンリルは、群れで生活しています。ほんの少し前までは30頭の群れでしたが、今、どれだけの者が生き残っているかは……』


 絞り出すような声が、そこで途切れる。考えるだけで辛いのだろうと、容易に窺えた。


「……な、なんで、そんなに……減ってしまったの……? 質問に答えるのが嫌だったら、無理しないで」


『原因不明の、オークの群れによる襲撃です。その場には身重のフェンリルやご老体のフェンリルもいましたから、そう簡単に逃げることもできず……』


 オーク……。この世界にもいるんだ……!


『長と奥様は、坊ちゃまがた―二匹の子ども―は死なせまいとして、出来るだけ遠くへ、逃げるよう命じました。その時、坊ちゃまの従者である私はそばについていろと言われていたのですが、道中はぐれてしまいまして……』


 そこでフェンリルさんは言葉を切って、わんこさんに向かって伏せた。


『本当に申し訳ございませんでした! 坊ちゃま、お嬢さま……!』


 わんこさんは何が何だか分からない様子で、二匹顔を合わせている。

 そういえば二匹を見つけたとき、ぐったり身を寄せ合って倒れていたけれど、相当ヤバい状況だったのだと、痛感する。


「……フェンリルさん! 君も、疲れてるんじゃない? 一度休憩して、後でわんこさんの両親のことをもう一度話し合おう!」

『え? 急に何を……』

《了解しました。なにか必要なものがあったらお知らせください》

「ん~、なんか食べれるものうちにあったかなぁ~……」


 ぽかんとしてこちらを観ているフェンリルさんと、フリフリと尻尾を振るわんこさん。


『……あっ! 食べものでしたら私が! 何か狩ってきます!』

「狩っ!? あ、ありがとう! おぉ、わんこさんたちも行きたいの? よしよぉ~し!」


 オーク……。群れを助けに行くとなれば、対峙するかもしれないのか……。けど、だからって見捨てるわけにはいかないよな……!

 フェンリルの長の子二匹をわしゃわしゃと撫でた。




◇◇気まぐれあとがき◇◇

更新、めっっっちゃくちゃ間が空いてしまってごめんなさい。

これからはトントンと更新してくよ~なんてことは言えないんですけど……、今回くらい間が空くことはないようにしますので、これからも応援よろしくお願いします。

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動物たちと、のんびり異世界暮らし! マー坊 @wu-tang

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