第7話 記憶泥棒

 10年後、空人の国――

『便利屋シアル』という店には朝から多くの行列ができていた。国中の老若男女が願い事を叶えてほしいとシアルの元を訪れていたのだ。


「あのぅ、シアル様は空人では無いのですよね?」


 目の前の幼い少女もその一人で、恐る恐るといった様子でシアルにそう尋ねた。


「そうよ、本当はね空人と地上の民の混血だったらしいけどそれを珍しがった王様が無理に奪ったみたい」


「じゃあ、ここに来れてよかったですね。あの王様も亡くなって、もう地上と空人の国は統一されましたから自由に行き来できるし、シアル様のような混血の人もいっぱいいる」


「そうね」とシアルは微笑むと同時にありし日の記憶が蘇った。


『君と一緒にいたい』


 それがリヴェレの最後の願いだった。

 彼がそう呟いた途端にシアルの身に大量の情報――リヴェレの記憶が流れ込んできた。

 「記憶は死なない」とリヴェレは前に言っていた。

 だからきっとシアルに記憶を授けることで「生きる」という選択をしたのだ。


 彼の記憶――リヴェレの人生の軌跡を知ることでようやくシアルは彼がなぜ自分の元に現れたのかを知った。


 リヴェレは元々トンボだった。

 

 しかし、空人は記憶によって姿形が変わる。人間になりたい、と願った彼は地上の人間の記憶を奪い自らの肉体を完成させた。

 

 正真正銘の記憶泥棒だった彼の罪滅ぼしだったのだ。

 シアルを『記憶泥棒』にさせないように、自らと同じ道を歩ませないために。


 最後、シアルに自らの罪を知ってもらいたくて記憶を与えたのかもしれない。それとも本当に一緒にいたいと思ってくれたのか、もはやシアルにはわからない。


 だが、これだけは言える。


 「リヴェレ、私は幸せだよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

記憶泥棒 @kawausou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ