第6話 願い

どうしてだろう、視界が白く弾けたような気がした。

 嫌な耳鳴りがして身体が燃えるように熱くなる。それなのに寒気すらしてシアルの五感が狂いそうだった。

 

 ふと我に返るとあの光の気泡がリヴェレの身体を包み込んで、まるで生命を吸い取ってしまうようにその泡は灰色に変わっていく。


「リヴェレ……!」


 ようやく出たその声は弱々しく彼に届いてすらいないようだった。

 光の泡はやがてリヴェレの身体に吸い込まれるように消えていった後、彼は人形のようにパタリと地面に倒れた。

 

 シアルは急いで彼の身体を揺さぶって必死に呼びかける。


「リヴェレ、リヴェレ!」


 その魂の叫びが聞こえたのかリヴェレはうっすらと目を開けて微笑んだ。しかし、やに白くなった顔は彼の身体に何か普通でないことが起きたと思い知らされる。


「大丈夫、すぐには死なないさ。

 毒の1種だろうからまだ時間はある」


「リヴェレ、願って!死にたくないって。そうしたらあなたを助けられる!」


 もしや既にもう天へ旅立ってしまったのかと不安に思うが、シアルの必死に呼びかけにリヴェレはうっすらと目を開けた。


「大切な記憶を使ってそんなくだらない願い事をするわけないだろ……」


 その言葉に、シアルは思わずリヴェレの手を握って彼の軽口を無理に笑ってみせた。


「……あなたは私を泥棒だけじゃなくて殺人者にするつもりなの……?」


 涙を流さないよう腹に力を入れても勝手に視界が滲んできた。


「そんなことないよ、僕は死なない」


 力強いその声音に少しだけ安堵する。そして彼は思いついたように「1つだけ……」と人差し指を立てた。


「1つだけ、願い事をして良いかな?」


 「もちろん」とシアルは涙声でうなずいた。

 てっきり「死にたくない」と願うのだと思っていた。


 だから次に彼がつぶやいたその望みはあまりにも異様で。


 気がついたら彼の肉体は光の気泡と共に消えていた。

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