第2話 「おばあちゃんの寿命を3年にしたい」

穏やかに笑顔で働いている反動で、人間の醜い部分を見たくなったのだが

昨日の客、伊藤は期待外れだった。


そうだ、もっと無邪気な子供をターゲットにしよう。

子供はときに無邪気であるが故に残酷だ。


気に入らない同級生を貶めるために、喜んで1000円払うだろう。

子供の寿命が3年になるのは心苦しいが、俺は刺激に飢えていたからちょうどいい。


また、空から人間界を見ていた。


秋晴れの、少し汗ばむような季節外れの暑い日だった。雲の上は直射日光が当たるから余計に暑い。


日焼け止め塗っておけばよかった、秋だからと油断した。

と、女子高生のようなことを考えていると、ちょうどターゲットに良さそうな小学生くらいの女の子を見つけた。


この子にしよう。


俺はそっと女の子に近づく。



「こんにちは〜。私死神ですが、ちょっとお話しいいですか?」



相手が小学生だろうと丁寧に接する。買いたいスマホのためだ。



『わ!死神さんって本当にいるんだ!思ったより怖くないんだね』



小学生は無邪気ですぐ信じてくれるからこっちも助かる。

女の子の名前はユリちゃんといった。


すぐに本題に入る。


「1000円払っていただけたら、誰かの寿命を3年にできます」


ユリちゃんは俺の話を聞いて、嬉しそうに答えた。


『1000円は高いけど、3年にして欲しい人いる!』



おお!やっぱり子供は無邪気でいい。


それで、学校の同級生か?それとも教師か?



「どなたの寿命を3年に致しますか?」



『おばあちゃん!』ユリちゃんは嬉しそうだった。



おばあちゃんか。小学生の子のおばあちゃんならそう歳はとっていないだろう。

寿命を3年にしたいほど憎んでいるんだな。


俺はにやけるのを堪えながらユリちゃんに聞いた。



「おばあちゃんのこと嫌いなんですか?」



『ううん、大好き!ユリの結婚式を見るのが夢っておばあちゃん言ってて。


でも最近病気になっちゃって・・長生きして欲しいんだ。』

ユリちゃんは悲しそうに続ける。


『あ、でも3年だとユリまだ結婚できない!1000円で3年ってことは、

5000円で15年だよね!お小遣い貯めて必ず払うから、死神さんお願い!』




(´・ω・`)




必死な表情でユリちゃんは俺に言っていた。

小学生にとって1000円は大金だ。


ましてや5000円なんて。

でも、俺は5000円貰えてユリちゃんもおばあちゃんに結婚式を見せられる。



人間の醜い部分は見れなかったけど、ゲーム機買いたいしまあいいか。


「では5000円で寿命を15年に致します」


そう言うとユリちゃんの表情はパッと明るくなった。

契約書にサインを済ませ、クーリングオフの説明をしたがユリちゃんはよくわからなかったようだ。



まあ、契約解除することなんてないだろうからいいか。

そうだ、5000円で15年にしてもいいと言うこと、伊藤にも言ってあげよう。



きっと喜ぶだろう、ハピネス死神株式会社の株も上がるしいいことづくめだ。

こんなご時世だが、人間も捨てたものじゃないな。



俺はやはり人間を喜ばせる方が性に合っているのかも、と思い始めていた。

欲しいスマホが買えるまで、あと4万4千円。

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令和の死神、副業始めました〜こんなご時世だが人間も捨てたもんじゃないな〜 宇佐野 らび @rabi-kaku

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