令和の死神、副業始めました〜こんなご時世だが人間も捨てたもんじゃないな〜

宇佐野 らび

第1話 「妻の寿命を3年にしたい」

俺は死神だ。

ハピネス死神株式会社で働いている。


昔は死神といえば国立死神局の一つしかなかったが、

今はたくさんの会社ができた。


ワンダフル死神株式会社、ハッピー死神株式会社。


これから死ぬっていうのにワンダフルのハッピーもないよ、

と思うかもしれないがこれは死神なりの親切心。


経営方針が親切で優しい会社が生き残ってきた。


人間は手厚く穏やかに死んだ後ももてなされたいらしい。

まあ、こんなご時世だしな。



俺の働いているハピネス死神株式会社も経営方針が親切だ。


「笑顔で穏やかに。死後の世界をおもてなし」がモットー。


死後のアフターサービスも欠かさない人気会社だ。


穏やかに、穏やかに、そう働いてきたけど刺激が足りない。


たまに人間の醜い部分がどうしても見たくなる。


スマホが欲しいし、お小遣い稼ぎがてらちょっとしたことをしようと思いついたんだ。


死神とはいえ欲しいスマホはお金を貯めて買う。


どこで誰がみてて炎上するかわからないからな。


まあ、こんなご時世だしな。



秋の爽やかな風を感じる中で、俺は空から人間界を見ていた。


俺の思いついたことを実践するターゲットを探すためだ。


「お、あいつなんていいじゃないか」


俺が見つけたのは40代くらいの思い詰めた暗い顔をした会社員ふうの男性だった。


思い詰めた暗い顔をした会社員は、大体職場に殺してやりたい人物がいると相場が決まっている。

そう会社の書類に書いてあった。


俺はその人間の元に降りて行った。



「こんにちは〜。私死神のものなのですが、少々お時間よろしいですか?」



つい会社で働いている時の癖が出た。



まあ、こんなご時世だし、丁寧に接する方がいいだろう。


いきなり現れた死神が乱暴な言葉遣いだと大体は逃げ出すだろう。


その会社員ふうの男性は意外にも驚きもしなかった。


話を聞くと名前は伊藤と言った。


早速本題に入る。



「1000円払ってもらえましたら、誰かの寿命を3年にできるのですがいかがでしょう?」


そう、俺はお小遣い稼ぎがてら、他人を貶める人間の姿が見たくてこのことを思いついた。


人間に近づき、他の人間の寿命を3年にすることを提案する。そして金をいただく。


人間の醜い部分も見れて金も貯まって欲しいスマホも買える。


こんな一石二鳥なことはない。



俺の言葉を聞き、伊藤は目を丸くした。


そして、泣いて喜んだ。



『いいんですか!寿命を3年にしてほしい人、います!』



おお、そんなに喜ぶか。これは俺の期待通りだ。


職場の同僚か?それとも上司か?早く誰のことか聞きたくなった。



「それで、どなたの寿命を3年になさりたいのですか?」



『妻です』


なんと!人間界には結婚という概念があり、そのパートナーとは一生一緒にいなければならないことは常識で知っていたが、やはり一生一緒など幻想だったのだ。


同じ人間とずっと一緒にいるのなんて、無理なのだろう。


すると伊藤は泣きながら話し始めた。




『妻が病気で余命宣告をされてて、あと半年しか生きられないんです。


あなたを見て驚かなかったのも、妻のお迎えが来たのかと思いました。


妻が後3年も生きられる。夢のようです。』



(´・ω・`)




伊藤は嬉しそうな表情で続ける。


『あ、でも死神さんは人間の寿命を伸ばしてはいけないんでしたか?』


それは昔の話だ。


ハピネス死神株式会社でも寿命を伸ばすことは禁止されていなかった。



なんせ「笑顔で穏やかに。」がモットーの会社だ。


人間の無理な願いも聞き入れてきた。そのおかげで顧客満足度トップになったのだ。


俺は答えた。



「いえ、今は寿命を伸ばすのも許されております。

奥様の寿命を3年になさりたいのですね、承知いたしました」




俺から言い出したのだ。やっぱりやめた、とは言えない。

本当はもっと醜い人間が見たかったと思いつつも契約に移った。




「では、こちらの書類にサインをお願い致します。

こちらと、こちらにお名前と住所と印鑑を。」



「あ、こちらと、こちらにもお願いします。」



こんなご時世だ、契約書がたくさんある。


そうだ、クーリングオフの説明もしなくては。




「こちらの契約、私から伊藤様を訪ねて契約したので、

本日から8日間の間、クーリングオフ、契約解除ができます。」



俺が説明しているのと被せるくらいの勢いで、



『解除なんてとんでもない。これでもっと妻と過ごせます。ありがとうございます。』



伊藤が嬉しそうに言った。



「では、何かありましたらまたご連絡ください」



癖で丁寧に名刺を渡してしまった。職業病な自分に嫌気がさした。


俺は期待外れな伊藤に心底がっかりしたが、金はもらえるからよしとする。


1000円もらえた。よし、スマホが買えるまであと4万9千円。


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