抹茶色の記憶

サトウ・レン

雨宿りに、抹茶アイスを買って。

 二十年くらい前の話だ。


 高校生だった僕は学校から帰る途中、コンビニの庇の前で、雨宿りをしていた。梅雨も、もう終わりだと思っていたのに、駆けるような雨が降って。どうせすぐ止むだろう、とぼんやり雨雲を眺めていると、横から突然、声を掛けられた。道に迷っちゃいました、と同い年くらいの女の子が照れた顔をしている。同じ学校の子だろうか、と一瞬思ったが、それなら道には迷わないだろう。抹茶色のTシャツに雨の色が混ざり、すこし黒ずんでも見える。十年ひと昔、って言うけど、街並みもひともこんなにも変わっちゃうんですね、と、不思議な言葉を続ける。彼女は何を言っているんだろうか。昔ここに住んでたんですか、と聞くと、ううん、いまも近くには住んでいるんだけど、お父さんとお母さんの思い出の場所をちょっと見てみたくて。そうなんだ。うん。でも疲れたんで、帰ります。雨が上がったら。意外と長引く雨の中で、彼女のお腹の音が鳴った。抹茶アイスを買ってあげると喜んでいた。雨が上がった。彼女がいなくなり、僕も帰ることにした。誰かに似ている、と考えて、分かったのは家の近くで幼馴染に会った時だ。


 高校生になった娘は、どこか彼女に似ている。

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抹茶色の記憶 サトウ・レン @ryose

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