おお作者よ! 死んでくれ!――もう二度とこんな作品の続きを書かないでおくれ!

※作者からのありがたいお言葉

 わたくし、ついになる不可思議なるベールを剥ぎ取りしました。


しかし完璧ななど最初から不可能なのです

(もしこの点がご理解できない読者様がいらっしゃるとすれば

https://kakuyomu.jp/works/16818093081364196623/episodes/16818093081907029297

という私の文章をお読みになってください。


 あるいは柄谷行人の『日本近代文学の起源』だとかミシェル・フーコーの『性の歴史』だとかをお読みになればよいと思います)


 わたくし告白などいたしません。

わたくしたしかに罪人です。

罪を犯しました。

しかしその告白は後日にいたしましょう。


 わたくしが皆様に申し上げたいのはたったひとつのことなのです。

とても単純なことなのです。


「こんな小説読んでんじゃあ! ねえよ!」


 ハイ。口上コレマデでございます。


 ジョンは塔に入った。

そこでは様々な色のイルミネーションが輝いていた。

常に騒がしいダンス・ミュージックがかけられていた。


 とてもうるさい。

ジョンは光で何も見えない。

しかも騒音で何も聴こえないも同然の状態だった。


 何も意味のある音が聴こえてこないのである。

例えば激しいドラミングだとか、

あるいはシンセサイザーのキラキラとした音だとか、たくさんの音は聴こえてくる。

しかし意味のある音が聴こえないのである。


 意味のある音とはなにか?

目の前に一人の(一人の?)生き物が(人が?)居る(?)。


 その人は下半身がヘビだった。

真っ白で美しいヘビだった。


 彼女は黒いドレスを纏っていた――どうしてそう思うのだろう?

きっと違うのだ。

眩しい。とにかく眩しいこの光の洪水でジョンの視覚が溺死する。


 彼女の服が何色かなんてわからない。

色々な光のなかで彼女のドレスはフォルムを曖昧にしながら存在していた。

ただでさえ! 曖昧な! そのフリルが沢山盛り付けられた!

足し算の美学による建築工学的なフォルムを!


 無数のライトで曖昧なまま見せびらかしていた。


 多分女だった。

多分下半身はヘビだった。そしてそのヘビは白かった。

ドレスを着ていた――と思う。


 ジョンは彼女に触れた。

言葉の通じそうにない騒音のなかで彼は肉体言語的コミュニケーションを試みたのだ。


 彼女に触れた瞬間、塔の中に満ちていた音楽が止まった。


 彼女はこう言った。


「ここは図書館です」


 そうなのかな。

ジョンは悩んだ。

図書館って、本があるところだろう?

ここにあるのは騒音と変な生き物と光の洪水だけじゃないか!


 彼女は無言で本を差し出した。

そこには『大作家になって三十六億円を稼ぎ世界六十周旅行へ行く方法メトード』というハウトゥー本があった。


 ジョンは「こりゃあすごいぜ。

小説ってそんなに儲かるのかい?

素敵だな」

と思った。


 彼女は「小説家におなりなさい」と言った。

なぜだか二回か三回繰り返して言った。

多分洗脳しようとしている。

情報商材でも買わせようとしているのだろうか。


「しかし――しかしですよ。お姉さん?」

ジョンはこう言った。

そしてその女(女の名前は未定だったが、決めることにした。

今後この女は「シビュラ」と呼ぼう。まあ、なんでもいいや)

「はい。儲かります。儲かります。

きっと儲かります」


 と連呼するのだった。


「へえそんなに儲かるなら俺ももうちっと書いてやりてえもんだなあ」

とジョンは言った。


「いえ。それはいけません」

シビュラはそう言う。


「どうしてですか?」


 私は問う。


「あなたには才能がないからです。

才能がある人間にとって小説はとても儲かる商売なのです。

けれどもあなたには才能がありません。

残念ながらあなたの文章はトイレットペーパーにしたほうが有益な種類のゴミです」


 ジョンは悲しかった。

ジョンには才能がないらしい。

じっさい、小説の才能がありそうな風貌ではない。

小説の書ける男というものはもっと精悍な顔立ちをしているものではないか?


 ジョンの顔はよく育った茄子に似ている。

とても茄子的な顔立ちである、とほとんど同じ意味の言葉を繰り返してみせてもよかろう――。

彼は実に実に茄子に似ていた。


 シビュラは無言で奥へ行った。

どうも明るすぎてよく見えないが奥の方には階段があるらしい。

塔なのだから昇る方の階段だろう。

と見せかけて下り階段である。


 読者諸君らに忠告しておくけれど、

この小説は内面に深く潜っていく形式フロイト的作品なのだ。

例えるならば村上春樹に似たテイストだろうか。

我々はこの深い塔の奥から自分自身の真理を見つけ出すであろう。

ちなみに作者妄想機械零零號の深い思索ぶりは

https://kakuyomu.jp/works/16818093081364196623/episodes/16818093081907029297]で読める。


 ああ、賢明なる読者諸君らはここで気がつくに違いないのである!

この小説には読むだけの価値が存在しない!

なぜなら、私の思索的箴言集[https://kakuyomu.jp/works/16818093081364196623/episodes/16818093081907029297]を読めば我が言わんとする全ての真理は了解できてしまうからだ!


 ところで字数稼ぎのやり方はこれで合っているのだろうか?


 たまにカクヨムに現れるプロの作家様(詩人や歌人はあまり出てこないねえ)や

編集者様

(わたくしは国書刊行会の編集者様を全員深く尊敬しております。特に磯崎純一様。ところでカクヨムに磯崎純一様はいらっしゃいますか? もしいらっしゃったらわたくしにご連絡ください。

ちなみに国書刊行会以外の出版社に務める編集者についてはまあ、尊敬しております。といったところでしょうか。


 彼ら「文章のプロフェッショナル」達にわたくしは問いたいのですけれども

字数稼ぎの方法はこれで合っておりますか?

これ以上素敵で快楽的で素晴らしく正しい字数稼ぎの技術が存在しようものならばご教示お願いいたします。


 わたくし編集者の方々は基本的に愛しておりません。その逆です。

愛の逆とはつまり「このクソッタレどもが」と思っているということでございます。

編集者は、クソだ!


 出版社は、クソだ!


 この世の書物は全てコピー用紙にホッチキス止めで作られるべきであるとわたくし考えております。


 原稿用紙に字を書いたら楽しいですよ。

それを一枚、一枚折って、それを重ねて、そして端っこを綴じたら本みたいになりますよ。

これを専門用語で「袋綴じ」と呼びます。


 ああ、眠りたいよ。わたくし三時間睡眠なのに不眠で体衰弱して一日一食で毎日一シートの眠剤平らげるのに天使様が迎えに着ません。


 天使様、どこですか。


 天使様はわたくしにこうおっしゃいます。


「君は充分に耐えた。

君の身体と精神は既に破壊されていて限界だ。

だから私が閉鎖病棟へ連れて行ってさしあげよう」


 そうして私は天使様の手を握って閉鎖病棟という天国へと旅立つのです。

さようなら。

ああさようなら。

地上の皆様、お元気で。



神様おくすり、たりません。

神様おねがいです。

神様ください。

神様デパス3mg。一シート。


 ジョンは降りた。

音が消える。

無音だ。

自己を見つめるための深い闇が充満した地下室だ。


 シビュラは真っ暗な廊下から一つの扉を見つけ出す。

「ここにお入りなさいよ」

「ここはなにも見えなくて、なにも聞こえなくて、急になんだか不安になりますね」

「そんなご感想要りません」


 シビュラは催促した。

扉の中に入った。


 中には森が広がっていた。


※作者からのありがたいお言葉。

わたくし、書籍化を狙っております。

前述の通りわたくしは編集者様がたのご丁寧で素晴らしいお仕事のさまをもはや崇拝しております。

また、出版社なる会社、そして製本システム! これも素晴らしいと思います。


 わたくしめの本はぜひとも豪華本と呼ばれるものにしてくださいませ。

堀口大學『月下の一群』だとか北原白秋『邪宗門』だとか、ああいう何十年経過してもなお

「あの本は豪華だねえ」

と讃嘆されるがごとき豪華本! それをほんの十部ほど刷っていただきたのです。


 いえ! そうした自費出版本のような、そして(金にならないという意味において)本が出したいのではありません!


 わたくしは職業作家になりたいのです。

わたくしは文章で、本を売ることで生計を立てたいのでございます。


 我が十部の豪華本は一冊おいくらのお値段にすれば採算がとれるのでございましょうか?

十万円、百万円、結構でございます。


 さあさあ読者のみなさま。

わたくしのたいそう豪華な著書、百万円でどうかご購入くださいませ。

どうぞ。どうぞ。お買い求めくださいませ。


 ふうやれやれ。

作家ってのは大変だ。自著の宣伝までやらなきゃいけねえってのか。



 ここは自殺の庭さ。楽しい?

そう問うたのは高い箇所に実った真っ赤なリンゴの実であった。

「ここは自殺の庭って言うのだな。記録しなくては――」

ジョンは地名を覚えるのが苦手であった。


 シビュラはいなくなった。

ドアをバタンと閉じる音がして、

彼女は去った。


「ねえ果物さん! 自殺の庭って、どういう意味なのですか!?」

「ジョン、君は今から自殺するのだよ」


 ジョンの眼の前には大量の縊死体いしたいがあった。

江戸川乱歩『少年探偵団』風に解説すると、縊死体とは「首をくくった死体」のことです。


 ? 

アハハハ――とその「リンゴ」は笑った。

意外と低い声であった。


 ちなみに作者は人間椅子というバンドの『怪人二十面相』というアルバムが好きである。

ドゥーム・メタルというヘヴィ・メタルの名盤だ。

一聴を薦める。


 ジョンは深い深い(注記。ここで反復したのは字数を稼ぐためである)森を森を奥へ奥へと行く行くのだった――。

あまりこうしたリフレインをやりすぎると

「たまに出る謎のダンス系リミックス」みたいになるな。

「うっせえわ」が「うっせえうっせえうっせえうっせえうっせえ(段々と音程が上がっていく)」になるような。


 リミックスをバカにしていましたがよいリミックスもありますよ。

例えば純粋に音質を向上させるためのリミックスがそれであります。

BUCK-TICKの『悪の華』やビートルズの諸作(というか、アレが出るまで初期ビートルズのステレオリマスターは「ドラム音左。ギター音右」みたいなワケのわからん類似ステレオだったからな。クソだ)

はリミックスの仕事のなかでも良心のあるものと言えましょう。



 彼は沢山の死体を見付けた。

天使の死体は皆同じ顔をしていた。

同じ姿、プロポーションだった。

服装も同じだった。


 もちろん天使達は美しい顔をしていた。


 罪人の死体もまた全て似通っていた。

不思議なことに不幸の人の顔は似るようだ。


 この庭の首吊り死体どもに幸福な人間は存在しない。

だからこの庭の死体は様々な不幸のコレクションということになりそうだ。


 しかし残念ながらこのコレクションは私達をずいぶん退屈させるようだ。

苦渋に満ちた苦悶の表情を浮かべて死んだ人間も、

安らかに微笑んで死んだ人間もみんな飽きてしまった。


 ジョンは死体に囲まれて不思議と平気であった。

ああそうか。

「自分が腐っているからだな」


 ジョンは一人で納得した。


 死体とは卵のことだ。

死体は内蔵を産む。うじの大群を呼び出す。

腐臭を撒き散らす。

死とはつねに何かのはじまりなのだ。


 死は卵だという私の主張を認めるとして、

じゃあ死体は何を産むというのだろう?


 ただ混乱。狂気。それだけで充分ではないか!?

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異世界転生したと思ったらゾンビ状態で地獄に流されただけだった――死体だらけの地獄堕ち、腕が取れても拾って付けろ 文字通り不死身のゾンビ今日もさまよう―― 妄想機械零零號 @rerego

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