異世界転生したと思ったらゾンビ状態で地獄に流されただけだった――死体だらけの地獄堕ち、腕が取れても拾って付けろ 文字通り不死身のゾンビ今日もさまよう――

妄想機械零零號

第一話 主人公の名前はジョンである

 ジョンはスリであった。

ジョンのパパもスリであった。

パパのパパの仕事が真っ当であったかはわからない。

ママは出ていった。ジョンはママの顔を知らない。


 ジョンはアリゾナ州に住んでいる。

アリゾナ州は多分カリフォルニア州と関係がある地名なのだろうと思う。

多分アメリカの西にあるんじゃないだろうか。

ジョンは地理にうとい。


 それはそうとしてジョンは一所懸命いっしょけんめいに働いている。

仕事場はスーパーマーケットであったり商店街であったりした。場合によっては映画館や路地裏で仕事をする日もある。

おいしいのは芸人が路上でライブしている時である。

ジョンはそうした場を見付けるとウキウキしながら寄っていく。


 今日もジョンは路上ライブしている芸人の観客たちに分け入って財布さいふいた。

最近はあまりウマい目にあわない。

キャッシュレス社会だから皆財布の中に現金をたくさん入れないのだ。

すると狙いはスマートフォンということになるが、こっちはよくない。

なぜならスマートフォンにGPS機能を付けている人がいるからだ。

見つかると酷い目にわされる。


 ジョンは元気に働いていた。

すると近いところで爆音が聴こえる。

ジョンはその音が銃声だと認識したと同時に地面に倒れてしまった。

撃たれたショックで気絶したのである。


 ジョンは暗い場所で目を覚ました。

全身が水で濡れている。

ここは真っ暗だ。立ち上がろうとすると水が跳ねる音がする。

地面から数センチほどので水が満ちている。


 水は腐ったような悪臭を放っている。

ジョンは吐きそうだった。

全身が濡れていて気持ちが悪い。

服は大部分が破れていてと言ったほうが正しいくらいだ。


 周囲を見回すとある方角から光が差し込んでいるのに気がついた。

あそこまで歩くのは大変そうだが外に出ないと本当に体にカビが生えてしまうだろう。

ジョンは自分の足がまだ動くことを確かめながら一歩一歩進んだ。


 光を前にしてジョンは戸惑っていた。

後ろからの光に照らされた巨大な人間がこちらをぼんやり見ているのだ。


 その人間はゆっくりと体を動かしジョンに迫った。

ジョンはとっさに左腕で顔をかばった。

それと同時に巨人がジョンを殴りつけた。

その攻撃はジョンの左腕に命中したのである。


 ジョンの左腕は吹っ飛んだ。

ジョンは混乱している。

なぜならあるべき〈痛み〉が一切無かったのだ。

左腕は吹き飛んだ。

自分のには骨が剥き出しになった断面が見えるだけである。


 ジョンはかなりビビっていた。

超ビビっていた。

もはや自分の肉体上の変化に対する困惑のあまり絶望していた。


 巨人はというとこいつはジョンの左腕を例のゆっくりとした動きのまま貪っているのだった。

水の跳ねる音に似て粘っこくてリズミカルな咀嚼音がジョンの耳にも聴こえた。

それが心地よいBGMではなくて恐ろしい食人の音だと脳が認識するには時間が必要だった。


 ジョンは突然走り出した。

左腕の断面を庇うのも忘れて駆け出した。

巨人の脇を通った。

巨人はジョンの左腕をらうのに夢中であり追跡する気は無いのだった。


 そこは野外だった。

光に満ちた世界とは言い難い。

空は絶望的に曇っていて重厚な雨雲がこびりつくように太陽光を蔽い尽くしている。

灰色の雨が降っている。

比喩や誇張ではなくて本当に灰色だった。


 雨は冷たい。

傷口に雨が触れたのに全く痛みは無かった。

見まわせば左には海があった。

後ろには忌むべき洞窟がある。

あそこの水は海のものだったか。

すると満潮まんちょうの時には水が洞窟の天井に至ったかもしれない。


 海辺を歩くと向こうに大きな塔があった。

ジョンはそこに向かうのである。


 その途中でジョンは何かに足を引っ掛けて転んだ。

ジョンを転ばせたのは死体だった。


 その死体は異様である。

顔の左眼ひだりめのまわりは紫色の腐ったような肌だが、右眼のあたりは滑らかな白い皮膚なのだ。


 全身がこんな調子なのである。

左手にはライオンのような爪、右手には馬のようなヒヅメが生えている。足は猿のように毛深い。


 ジョンは頭がおかしくなりそうだった。

気持ちが悪いと思った。

薄気味悪い。

愚劣な人体実験が生んだモンスターってこんな感じじゃないだろうか。


 死体の近くには箱が転がっていた。

幅の広い紐がついていて肩に掛けられる。

ジョンは中を開けた。

そこには裁縫道具さいほうどうぐが入っていた。


 ジョンには縁の無い道具だ。

この死体はデザイナーか何かのものなのだろう。

ジョンは立ち去ろうとした。


 歩き出そうとすると目の前にさっきの死体と全く同じ人物が立っている。

ジョンはぶつかりそうになった。

泡が口の端からブクブク出てきそうなジョンに彼女は言った。


「君、大丈夫か?」


 お前がいるから大丈夫ではなくなったのだとジョンは言いたかった。


「怪我をしているではないか」


 彼女はジョンの左腕があった断面を指さした。


「確かに僕は怪我をしています」


「治してやろう。

あっそうだ。私はもうんだった」


 不思議に思ってジョンがさっきの死体と彼女を見比べた。

確かに死体はちゃんとある。

でも彼女はそこに立っている。

両者の見た目はそっくりだ。


「私はお化けなのだ。

肉体には強度がある。

この強度というのは道具や物体の単純なとはちょっと違う。


言うなれば〈魂の器〉としての耐久力が強度なのだ。

魂の器が劣化した時人間は死ぬ。残った魂は幽霊になる」


 よくわからない。

「心臓が止まれば死ぬ。死ねば幽霊になる」というだけではないのか。


「ほらあなただってゾンビだろ?

ゾンビと言ったって本当に不死身ではないのだ。

寿命があるのだ」


 ジョンは驚いた。

自分は今「ゾンビ」と言われたのだ。


「僕はゾンビではありません」


「あなたはゾンビだ」


 そう言って彼女はジョンの腕の肉を引っ張った。

全く痛くは無い。

そのうちジョンの腕の肉が千切れた。


「ほら痛くないだろ。

それに見ろ。肉の色が緑色だ」


 確かにそれは緑色だった。

カビでも付いているのだろうか。

ジョンは不思議だった。


「でも全く臭くありませんよ」


「それはあなたの鼻がおかしいからだ」


 ジョンの嗅覚はぶっ壊れていたのだろう。

そう言われるとそんな気がした。


「あなたは腐っている。多分脳も腐っているけれど会話はできるらしい」


 ジョンは「腐っている」と言われて少々心外でこそあったものの、

別に怒るほどでもなかった。


 ジョンは二箇所の肉を失っていた。

ひとつめは例の巨人にやられた左手で、

もう一つは彼女に肉を引っ張って「ちぎり取られた」やつだ。


 彼女――彼女のことをジョンは便宜上、「ツギハギ」と呼ぶことにした。

実際に見た目が「ツギハギ」だった。

のみならず彼女はあらゆるものを「裁縫セット」で縫い合わせてしまう技術を習得していたのでる。


 彼女は別になんと呼ばれても気にしないようだった。

「ツギハギ」でも「女神さま」でも「天使さま」でも良かったのである。


 ツギハギは私の失った肉を再生してくれた。

ほら、海にはいろんな漂着物が流れ着く。


 その一つに「左手」があったのだ。

その紫色の左腕をジョンの断面と縫合したのである。


 そして先程「ちぎり取った」のような肉片をジョンに返してくれた。


 ジョンは感謝の言葉を告げたあとツギハギと一緒に向こう側の「塔」へ行こうとした。

しかしツギハギの体はだんだんと薄れてゆき、消滅してしまった。


 代わりに海岸で横たわったまま動かない「死体」の方のツギハギはずっとそこにいる。


 ジョンは立ち返ることにした。

彼女の裁縫セットを取り、

「もしもし――もしもし――」

と話しかけた。


 どうしてそんなことを思いつけたのだろう?


 不思議だ! ジョンは自分でも自分の思いつきを説明できないのである。


 裁縫セットはこう言った。


「おお、戻ってきたのか!

私はこの箱に居る。この箱にいるのだ!

だから、この箱を連れていけ!」


 ツギハギの声。

彼女の声はすこし掠れている。

しかも少し籠もっている。

聞き取るのが多少困難なこともあるけれどジョンは平気だった。


 ジョンは裁縫セットを携えて「塔」へ向かった。



※今日のお話はここまででおしまいです。

次のお話が完成次第、皆様のお目にかけましょう。

書き溜めなどないのです。

すると――すると私はまるで講談師こうだんし噺家はなしかのようではありませんか?

インプロビゼーション(即興)でどこまでも語る。

しかし講談をやる「会場」もお客様がぎっしり詰まる「場」もここにはありません。


 私は独り言を言っているだけなのです。

読者はいません()。

聴く人はありません。

そして言葉は全てデタラメ。


 でも、それで良いのです。


 ところで皆さん、私は「ショートショート集」の連載を持っております。

これだって書き溜めがあるのじゃない。

ただデタラメを出来たぶんだけ投稿するのですよ。

その、私の「ショートショート集」の最新話の名前がのです。


 それはね、「妄想機械零零號の最高傑作」って言うのですよ。

面白いですね。自分で最高傑作なんて。

ここからは下り坂なんです。

もう二度と過去の自分を越えられやしないのです。

そうした「あきらめ」がこうしたひどく滑稽なタイトルを書かせたのでしょうね。

https://kakuyomu.jp/works/16818093081364196623/episodes/16818093081907029297


 私、この小説書ききれるでしょうか。

自信、ありません。

何文字くらいになるのでしょうか?


 カクヨムは長い方が有利な気がします。

だって、その回数だけ「新着更新」としてページトップに載せてもらえるでしょう?


 だから、私だらだらとどこまでも、どこまでもどこまでも、でこまでも……つまらないお話いたします。


 独り言です。あなたにつまらないお話をします、という内容の独り言です。

文章はあと少しで四千文字になるそうです。


 伸ばせば伸ばすほど、広告掲載料が増えるのです。

だからまた、だらだら話すのですね。


 でも今はすこし体が痛むようですから、ここまでにしましょう。


 次回は、ある。

きっとある。

お約束いたします。

次もデタラメなお話どこまでもどこまでも続けると、お約束いたします。


 ああそうだ、私は死ぬまで書くのです。

「私の躰は壊れ――しかし死ぬまで歌い続ける!」

昨日、そう宣言したのです。これは私の「短歌連作」のタイトルです。

私は歌を詠むのです。

https://kakuyomu.jp/works/16818093079314761591/episodes/16818093082071412531


 不幸にして――私が死んでいなければ、またお会いしましょう。

読者さま。


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