第65話 エピローグ 高校生活が終わって
季節は三月。まだ寒いけど気持ち的には晴れやかだ。二月の後半に行われた帝都大学入学試験は無事合格した。もう入学手続きも済んでいる。
そして今日は卒業式だ。俺は先に学校に行くが、両親も来る事になっている。もう全校生徒に俺のお母さんの事はバレているので気にしていない。
教室に入ると皆嬉しそうな悲しそうな複雑な思いの顔をして周りの友達と話をしている。今日で皆の顔を見るのも最後だ。
教室に入って神林、小岩井さん、堀川と浅井さん、それに須藤さん三人と朝の挨拶をした後、当然大学の話題になった。
須藤さんがいきなり
「東雲君は受かったんでしょ」
「あははっ、いきなりだな。ああ受かった」
「おめでとう。えへへっ、実言うと私達三人も受かったんだ。これからも宜しくね」
堀川が
「へーっ、須藤さん達も受かったんだ。すげえっ。俺は城智大学だよ」
「素敵な大学じゃない。おめでとう」
「おう、ありがとう」
小岩さんが
「佳織も言いなさい」
「私は、帝都大の理学部です」
「おめでとう。良かったわね」
「うん」
「東雲君。須藤さん達と同じ様に佳織の事も宜しくね」
「はい」
花蓮が声を掛けてくれた。そして東雲君がはいと言ってくれた。今日卒業式が終わったら…もう話しても大丈夫だよね。
「そう言えば神林と小岩井さんは何処だ?」
俺が聞くと
「俺達は都立だ。花蓮と一緒だよ」
「羨ましい限りだな。もう中学からだろう。凄いな」
「なに、簡単さ。俺達は相思相愛だからな」
「「「「聞いてらんない」」」」
面白い。周りの子達も反応した。
それから担任の田村先生が緊張した面持ちで入って来た。白いスーツ姿だ。
「皆さん、卒業式が始まります。廊下に出て下さい」
いつも入る体育館の脇からではなく正面入り口からの入場だ。3Aの俺達は一番先頭で入る。
田村先生に先導されてゆっくり進むとお父さんとお母さんの居るのが直ぐに分かった。思い切りの笑顔で拍手をしてくれている。
俺も思い切りの笑顔で返した。そして椅子まで行って座った。俺達の後からも他のクラスの人達が入って来て座っている。
そして三年生が全員座ると式次第に則って開会の言葉で卒業式が始まった。
国歌斉唱の後、卒業証書授与が有った。と言っても人数が多いので元生徒会長が代表で受け取った。
それから校長式辞や来賓式辞等が進み在校生送辞の後、卒業生答辞が始まるとそこかしこからすすり泣く声が聞こえて来た。
流石に俺もぐっと来たけど、涙だけは何とか耐えた。そして校歌斉唱の後、閉会の言葉で終わった。
体育館を出て行く時もお父さんと目に涙を溜めたお母さんが思い切りの拍手をしてくれていた。
皆で教室に戻ると笑顔と寂しさが入り混じった様な顔をしている。神林達と話をしていると浅井さんが、
「東雲君、話したい事が有ります」
「分かりました。俺も話したい事があるので終わったら、そうしましょうか」
「はい」
東雲君が私に話したい事が有ると言って来た。これはどう思ってよいのかしら。でも気は緩めない様にしないと。
担任の田村先生が入って来た。
「皆さん、卒業おめでとうございます。この一年間このクラスの担任をやって来てとても楽しかったです。
卒業証書の授与を行います。名前を呼ばれた方から前に出て来て下さい」
順番に名前が呼ばれ受け取る度に先生は声を掛けてくれて皆で拍手をする。素敵な光景だ。
「東雲和樹君」
「はい」
ちょっと緊張する。前に出て行くと
「東雲君。一年生の九月からの転入で大変でしたでしょうけど、よくここ迄頑張りました。卒業おめでとう」
「先生お世話になりました。ありがとうございます」
ちょっとだけ、目に涙が溜まった。
全員が受け取り終わると
「それでは皆さん。これからも元気で居て下さい。さようなら」
俺は、最後のクラス委員の務めを終わらせると浅井さんを見た。
「行きましょうか」
「はい」
小岩井さんが浅井さんにウィンクしているけど…。気にしない事にしよう。
しかし、昇降口に行くと在校生と先生達がフェアウェルロードを作っていた。結局そこを通って校門まで行ったけどちょっと恥ずかしかった。途中で在校生に掴まっている卒業生もいたけど。
校門を出た所で
「何処にしましょうか」
「もし差し支えなければ私の家の最寄り駅の傍に静かな喫茶店があります。そこは如何でしょうか?」
「分かりました。行きましょうか。ちょっと待って下さい」
俺は両親と一緒に今日は卒業祝いと帝都大合格祝いを兼ねて夕方にホテルで食事する事になっている。
そこまで遅くなるとは思わないが、帰りが遅いと心配する。だからお母さんに連絡を入れておくことにした。
それを済ませると
「浅井さん、行きましょうか」
「はい」
浅井さんの家の最寄り駅は学校のある最寄り駅から二つ目。直ぐに着いた。改札を出ると閑静な住宅街が広がっている。その住宅街に入る前に確かにシックな感じの素敵な喫茶店があった。
二人で中に入るとマスターらしき人が
「好きな所に座って下さい」
と言われたので、俺達は奥の方に座ると注文だけした。そして
「浅井さん。話というのは」
「はい、でもその前に東雲君のお話を聞いた方が良い気がします」
確かに言えるな。彼女がこれからの事を話しても俺がメアリーとの事を言ったら全て否定する事になる。
「分かりました。…実は俺、今年の六月にエンゲージメントする予定です」
「えっ?!婚約?」
「はい、ボストンでミドルに居た頃に知り合った女性です。浅井さんも会っているので知っています」
「メアリー・スタンフォードさん?」
やはりそういう事だったのか。これ以上の話は意味がなさそうですね。やはり遅かったのか。
「それはおめでとうございます。もう私が東雲君に何を話しても無意味の様ですね。でも教えてください。
もし、私が上条さんにあの様な反応、態度を見せなかったらお付き合いしてくれていましたか?」
「それは分かりません。俺は二年で三人もの女性から騙された。あの時はいくらあなたが近付いても同様に見たと思います。例え何と言われようと」
「でもスタンフォードさんとエンゲージメントしたんですよね。同じではないですか?」
「違います。俺はその時、誰も知らない大学で新しい環境で新しい人達と新しい関係を築こうと考えていました。
そんな時、メアリーから告白されてスタンフォード大に一緒に行こうと誘われました。そうすれば、今迄の事も全く忘れる事が出来る。
でも両親の事を考えるとその選択は出来なかった。だから大学生の間は、お互いが八月に一か月間交互に日本とUSを行き来する事にしたんです。
その事も有ってメアリーがハイスクールを卒業する六月にエンゲージメントをする事になりました。もうエンゲージリングも発注しています」
もう駄目なのかな。でもまだ分からない。
「分かりました。東雲君がエンゲージメントしたという事で私からあなたにもうお付き合いの話をするのは止めます。
その代わりとは失礼ですけど、同じ高校を卒業した友人として須藤さん達と同じ様に接して貰えませんか?」
ここまで話して拒否する理由はないか。
「分かりました」
少しの沈黙の後、
「東雲君と初めて校舎裏で会って、プールに行って、思井沢で会った時は、もう結ばれる運命にあるんだと思っていました。
だから急ぐことは無いゆっくりと心を合わせて行けばいいと思っていました。そういう私の思い上がりが、今の結果を招いたのです。あの時強引にでもあなたにアタックしていたら…と思うと。ふふっ、最後の私の愚痴です。もう帰りましょうか」
「はい」
俺は電車に乗って家に向かいながら、もし浅井さんから、あの時そう来られていたら俺はどうしたんだろうか。はっきりって分からないというのが本当の所だ。
でももしそうしていればメアリーの事も無かったのかも知れない。
もうそんな事考える必要も無いか。俺の高校生活は終わったんだ。最高のエンディングで。
……俺のキャンパスライフ大丈夫だろうな?
―――――
今迄、第一話からこの作品と読んで頂いた読者の皆様、大変ありがとうございます。
七月二十一日から投稿を開始して、一日も休まずに今日九月二十三日まで投稿出来た事大変嬉しく思います。
また多くのご感想を頂き嬉しくて言葉もありません。全て読ませて頂いており、今後の参考にしたいと思っております。また誤字指摘ありがとうございました。
親の都合でUSのミドルスクールで三年間勉強し、無事に日本帰って来て、転入した高校に、幼馴染の如月若菜がいて、でも彼女は付き合っていた男子を隠していて、
次に付き合った八頭音江も…本当は彼女も被害者だったんだろうけど自ら和樹から身を引いて、
そして三番目の上条佐那も付き合って結局裏切られるというとんでもない経験に見舞われ、
本当は純粋だった浅井佳織を避けてしまうという、女性運が無いのかそれとも和樹の行いが悪かったのかという所でしたが、
最後はミドルで出会ったメアリー・スタンフォードと結ばれる?事になりました。
和樹の人生まだまだこれからです。作者としては東雲和樹が平穏な生活が送れる事を祈るばかりです。
最後にもう一度最後まで読んで頂いた読者の皆様大変ありがとうございました。
最後のご感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
次作品を投稿を始めています。本作品同様読んで頂ければ幸いです。
「女の子救ったからって恋愛出来る訳じゃない」
https://kakuyomu.jp/works/16818093083728472736
宜しくお願いします。
俺を裏切らない彼女が欲しい @kana_01
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