第7話 オンライン大会 本編

司会「せーの、じゃんけん・・・」

リックス「パー」・メルディー「グー」

 独特なジャンケンにより、リックス、緑斗が先攻か後攻かを決める権利を得た。

リックス「先攻で。」

 緑斗は緊張の絶頂にいたため、一刻も早くビートボックスをして気を紛らわせたかった。

司会「強気ですね〜!それでは、リックスバーサスメルディー!先攻はリックス!後攻はメルディーです!準備はいいですか?3!2!1!ビートボックス!」

 一回のターンの攻撃可能時間は1分20秒。聞いている客に時間を気にさせてしまった時点で敗北が決まったようなものである。いかに客を自分のビートボックスに引き込み、時間を忘れてノらせるかが勝敗の決め手となる。

 事前に紅黄から教え込まれていた、バトルでの戦い方。

 まず、初心者は相手に挑発を受けても乗らない。ビートボックスバトルでは、相手の難しい技を自分のターンに復唱すると、相手のメンタルにダメージを与え、会場の空気を自分に持ってくることができるため、挑発に乗るビートボクサーは少なくない。

しかし、初心者である緑斗はまだ使える技の数に限りがあるため、緑斗にとって難しい技を真似ようとして失敗するよりは、じっくりと自分の空気に持っていくことが勝利の近道なのだ。

リックス「What’s up guys?」

 日本の大会なのに英語で呼びかける、理由はかっこいいから。

 今大会での緑斗の戦い方は、とにかく初心者なりに構成を工夫し、簡単な特殊音を2個ほど交えてだんだんと盛り上げていき、場の空気を引き込むというものだ。

これの利点は、相手のターンになって1番盛り上がるところを復唱されても、だんだんと盛り上げるように構成したおかげで、よほどやばい技をまねられた時でない限りオリジナルよりも盛り上がることはないことだ。

 このビートボックスバトルは、一人2回ずつ交互にターンが与えられる。

 緑斗は、初めのターンはダブステップで臨むことにした。初心者なので複数のとんでもない重低音を出すことはできないが、たくさんの低音技があるうち一つの技は習得し、応用技術も身につけた。

リックス(初めはゆっくり落ち着いて・・・時々特殊音を挟みつつ・・・)

 一定のリズムを刻み、だんだんと音の種類を増やしていく。

バスドラムからスネア、スネアからハイハット、それを複雑にしていき・・・。

 気づけば1分20秒、緊張もほぼなく無事に自分のターンを終えることができた。

司会「タイム!スイッチ!」

 メルディーのターン、見事に緑斗の罠にハマり、盛り上げづらいアンサーを返してくれた。

これによって、相手のターンを10秒ほど縮めることができた。おかげで相手の凄さを見せる場を少なくできたので単純に考えて有利になったと言える。

リックス(これもしかして勝てる・・・?今の所ミスはないし、落ち着いていけば可能性は・・・)

 そう思った矢先、なんと音楽性で売っている対戦相手のメルディーが、攻撃力が高くバトルに向いているドラムンベースで攻めてきた。緑斗も2回目のターンにドラムンベースで仕掛けるつもりだったので、先手を打たれてしまった。

リックス(まって、まずいまずい!明らかに相手のドラムンベースが一枚上手だ!どうしようどうしよう)

 緑斗は完全にパニックになってしまった。メルディーのドラムンベースは、程よく複数のベースが組み込まれており、わかりやすくノレる。普段曲を作っている人だからできる芸当だ。

 この場合、緑斗が2度目のターンでドラムンを採用すると、メルディーの二番煎じかつ攻撃力のないターンになってしまう。

リックス(どうせ仕込んだドラムンでもノラせることができない。それなら・・・)

司会「タイム!スイッチ!」

リックス「うますぎでしょ、でも俺のフリスタに勝てるかな?」

 生意気なことを喋っているが、フリースタイルは準備できていない。

 歌詞はなくても、半年分のビートボックスに対する情熱を観客へ伝えるために精一杯ビートを刻む。

バスドラムからスネアの順番で1ターン目は構成したが、今回はバスドラムからハイハット、スネアの順番で構成した。

特に理由はないが、フィーリングと独自のグルーヴで、ある程度形にすることができた。

司会「タイム!スイッチ!」

メルディー「それでこの俺と戦ったつもり?フリースタイルなら負けないよ」

 メルディーも合わせてフリースタイルで仕掛けてくる。準備していた曲もあるにはあっただろうが、わざわざ緑斗に合わせてフリースタイルにした。

これは観客にとっては激アツ展開。場の空気は完全にメルディーによっただろう。

 メルディーは音楽を作るビートボクサー。普段は音大に通い、音楽について学んでいる

司会「タイム!」

 いい雰囲気を演出するハンドクラップのような音を一定間隔で刻みつつ、ハミングで気持ちのいい音を出す。

誰がどう見ても弱いものいじめだった。

司会「それではジャッジに入ります。赤がメルディー、青がリックスです。審査席のみなさん、準備はできましたか?」

5人「できました!」

司会「ではいきます、3、2、1、ジャッジ!」

赤4、青1。

司会「赤4、青1でメルディー!惜しくも敗れたリックスの健闘を讃えましょう!」

拍手を受けながら、敗北を実感した。1人の票をもらうことができただけよかった。

次回、頑張ろう。

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天下ヒトクチ @Takeda_Toru

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