第6話 高校1年 ネタづくり・オンライン大会編

緑斗「まじか・・・。」

 猛特訓開始から半年以上経ち、技術もセンスも磨いた緑斗。

そんなある日に紅黄から伝えられたのは、ヒューマンビートボックスで一曲作れという課題だ。

緑斗「そもそもなんでそんな急に一曲作るなんて紅黄は言い出したの?」

紅黄「最近の緑はうまい。普通にビートボックスができるようになって、俺ができない技を習得している場合もあるし、本当に上手くなった。たった八ヶ月でだぞ?これはほぼ偉業だ。だから、その技術をしっかり生かして曲を構成する力を養うための曲作りだ。」

緑斗「なるほd」

紅黄「ついでにそれを審査してもらい、良ければ大会に出場してもらう」

緑斗「タタタタイカヒ?!」

紅黄「そう、大会。でも、緑がイメージしているような、ステージに立ってパフォーマンスをするGBBやJBCとは違って、オンラインだ。そこは参加しやすいように配慮した。」


GBBとは、Grand Beatbox Battleの略で、ヒューマンビートボックスの世界大会。

Momomuriをはじめとする有名ビートボクサーたちが集まる大会。

JBCは、Japan Beatbox Championship の略で、ヒューマンビートボックスの日本大会。

GBBへの架け橋となることが多く、JBCを優勝した人はそのほとんどがGBBへ歩を進めている。


緑斗「なんだオンラインか、いやでも大会は緊張するだろ、ビートボックス歴八ヶ月で大会はメンタルがもちませんよ!」

 流石に厳しいと判断した緑斗、必死に紅黄に抗議するが・・・

紅黄「動画を作って投稿することに罪はないし、確実に大会に出られるわけでもない。いつも通りビートボックスをして、それを動画に撮って投稿すればいいだけなんだよ。」

緑斗「うぅ・・・」

 狼狽うろたえる緑斗。そんなこと関係ないと言わんばかりの勢いを見せる紅黄。

紅黄「ちなみに、最近のビートボックス界隈は、ただビートボックスがうまいだけでは評価されづらくなってるんだ、どれだけ効果的にそれぞれの音を使うことができているかを主に評価されてるよ。」

緑斗「あぁ、もうだめだ・・・」

 挫折しそうになる緑斗。構わず畳み掛ける紅黄。

緑斗(このままだと気絶しそうだ・・・何か落ち着ける質問を投げかけよう・・・)

 そうして少し考えたのち、緑斗は紅黄に質問した。

紅黄「聞いてるか緑?」

緑斗「うん。なぁ紅黄、その構成については教えてくれるのか?」

紅黄「いいや、教えられない。なぜなら俺は即興アーティストだから。」

もうだめだ。自分で追い打ちをかけてしまった。

緑斗「ゴボゴボゴボ」

しまった。泡吹いて倒れちゃった。

紅黄「おい緑?!どうした?!大丈夫か?!誰か〜!!」

あなたが原因ですよ。


一時間後・・・


緑斗「ん・・・?」

目を開けて、景色を見て、

緑斗「知らない天井だ」

むくっと起き上がる。

緑斗「うわ、びっくりした!」

 目の前でじっと緑斗の顔を見ていたのは、紅黄だった。

紅黄「起きたか」

 ニコッとして水の入った紙コップを取り出し、緑斗に差し出す紅黄。

緑斗(こいつこんなキャラだったっけ・・・)

緑斗はそれを口に含み、唇に潤いを持たせてから飲み込んだ。

緑斗「紅黄、お前今日なんか変だぞ。どうしたんだ?」

 緑斗が不思議そうに問いかけると、紅黄は突然笑い出した。

緑斗「おぉどうしたどうした」

紅黄「いや、そんな初めて見る人みたいな顔されたら笑うでしょ」

緑斗「それで、紅黄はなんで俺のこと看病してたんだよ。」

 紅黄が一通り笑い終えた時を見計らって、緑斗が質問をした。

紅黄「だって、起きたらすぐ大会のネタ作らないと大会に間に合わないんだから。来月だよ?」

緑斗「来月の大会をなんで今日になるまで黙ってたんだよ・・・」

 そんなこんなで、紅黄と緑斗の徹夜ネタ制作が始まったのであった。


三徹後・・・


緑斗・紅黄「「完成だ!!」」

 喜びに満ちた声で完成を宣言した二人。2秒後には、ハイタッチをしたまま眠りについていた。

 翌朝、十四時間寝て午前九時。二人は手を合わせた状態のままほぼ同時に目が覚めた。

すぐに完成したネタを緑斗が演奏している様子を動画に撮り、その動画を編集し、MeFunで投稿した。

これにより、晴れて緑斗も正式にヒューマンビートボクサーとしてデビューした。

紅黄「大会、いいとこまで行けるといいな」

 四日間寝ないで作業したせいでむくみ果てた顔で、二人はグシャッと笑った。


一ヶ月後・・・


 緑斗はMeFunに投稿したネタが審査を通った。

そのため、緑斗と紅黄は午後の10時に予定された大会の準備に集まっていた。

紅黄「大会の日がついに訪れたな。大会まであと四時間、緊張すると思うが、普段俺に向けてやっているのと同じように、肩の力を抜いてビートボックスをすればいい。今回緑をここに呼んだのは、大会前のウォーミングアップをするためだ。」

 気合いの入った大きな声で返事をする。

紅黄「口周りの筋肉のポテンシャルをフルで活かせるように、今のうちにしっかり使っておくことが必要だ。なので、まずは舌回しを50回ずつ時計回りと反時計回りで行おう。俺も一緒にやるぞ」

 この流れで、二人は舌回しや頬膨らましをはじめとする様々な口周りの筋肉を動かすウォーミングアップを行った。

緑斗(すごい、昨日気合い入れてたくさん練習したせいで筋肉痛みたいに固まってた筋肉がすんなり動かせるようになった。)


午後10時・・・


司会「さあ今回から毎年開催する、オンラインビートボックスカップがついに始まります!」

 オンライン大会なので歓声は聞こえないが、緑斗にはここが家でも家じゃないかのような緊張が走った。

司会「まず一回戦!出場者はグランドビートボックスバトルの出場権を握り・・・」

 ヒューマンビートボックスをしている人なら誰もが知っている日本のうまいビートボクサー同士のバトル。緑斗にとっては、初戦から強い相手が一人確実に落ちるので好都合だった。

 その実際のバトルは、想像以上に迫力満点だった。どちらも自分の代名詞となるような大技を持っており、まるで近未来に行われる戦争のような攻防だった。

緑斗「この次、俺・・・?」

 とんでもなく強大な敵を目にした緑斗は、ビートボクサーのアカウントが複数写っているライブ配信の画面につぶやいた。

 緑斗もこの大会のために仕上げてきている。自分の代名詞とまではいかずとも、他の誰も出せないような珍しい音を習得してこの場所に来ている。しかし、この緑斗は、そんな悠長なことを考えている余裕はなく、この次に行われる前回JBC3位とのバトルの構成について考えていた。

司会「いや〜どちらも引けを取らない白熱した戦いでしたね!次に戦うのは前回JBCを3位で終えた音楽系ビートボクサー、メルディー!」

 やはりオンラインなので歓声はない。しかし、緑斗は緊張の絶頂に達していた。震えが止まらず、歯軋りをして音声を聞く。

司会「そして、今回初めての大会出場となった、ビートボックス歴約半年!期待の新星、リックス!」

 自分の活動名が紹介される。緑斗、もといリックスは震えた声で自己紹介をしたが、果たして司会や視聴者に届いたのだろうか。

 心の準備をする時間もなく、初心者対上級者の大戦が幕を引いた。

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