第5話 高校1年 猛練習編

紅黄「ちょ、お前何言って・・・?!」

緑斗「言葉のままの意味だよ。俺、秋間 紅黄みたいなすんげーボイパーになりたい!」

紅黄「ちょっ、ちょっと待って。え、本気で言ってる?」

嘘でしょ、と言わんばかりのしかめっ面で聞き返した。

緑斗「だからそう言ってるじゃん。今のボイパで、完全に秋間は俺の心を掴んだ!だから、俺は秋間みたいなカッケーボイパーになりたいんだよ。」

紅黄「ま、まぁわかった、わかったよ。うん・・・」

どうしたものかという表情でこぶしあごに当てる紅黄。

 そして紅黄は、淡々たんたんと次の事実を伝えた。

紅黄「まずはだな、ボイパーとは言わん。」

緑斗「え?!そうなの?!」

緑斗は目を見張った。そりゃそうだ、ボイパをする人なんだからボイパーに決まってると思っていたのだから。

紅黄「あぁそうだ。そもそも、うちの界隈かいわいではボイパをボイパとは言わない。」

緑斗「そうなの?!驚きの連続なんだが。」

紅黄「そうだろうそうだろう。みんなそんなもんだからな。うちの界隈では、ボイパは、『ヒューマンビートボックス』という。」

緑斗「ヒューマンビートボックス!長いけどカッケー!」

小動物みたいにぴょんぴょん飛び跳ねながら話を聞く175cm。

紅黄「なんか、お前かわいいな。」

緑斗「なんだ?あおってんのか?あとお前って呼ぶな緑斗って呼べ!」

紅黄「煽ってないよ、マルオで言うところの小ジャンプをしながら話聞いてくるもんだから。」


マルオ、日本でも海外でも人気なアクションゲームの王道。マルオとルーイズは配管工で、なぜか国の姫であるパクチーを助けようと奮闘ふんとうするのだ。


紅黄「あとごめん緑斗、なんて呼べばいいのかわからんかったわ。」

緑斗「聞いてくれりゃいいのにな。」

紅黄「ごめんごめん。」

緑斗「んで話戻すけどさ、そのヒューマンビートボックスってやつ、紅黄が俺に教えてくれるんだよな?」

紅黄「基礎くらいはな。だけど、そこから先は緑斗の興味が続いたら考えてやるよ。」

緑斗「おっしゃ、受けて立つ!」

それからは、紅黄による緑斗のビートボックス技術を磨く猛特訓が始まった。

 まずは基本中の基本、紅黄が緑斗にボイパがどんなものかを伝えるときにやったような、「ぶっつっかっつっ」というビートが正しく組めるように、基礎の音の練習を始めた。

紅黄「『ぶ』これは、バスドラムって言って、ドラムで言うところのキックだな。緑斗、ドラムはなんとなくわかる?」

緑斗「ほんとやんわりとわかるかな。」

紅黄「あ、わかんないなこれ。なるべくわかりやすく説明すると、大太鼓の音みたいな感じかな。説明難しいなぁ。」

緑斗「なるほど、だいたいわかったぞ!それで、バスドラムはどうやってやるの?」

とにかく早く知りたい緑斗。


紅黄の説明をまとめるとこうだ。

 まず、声を出して発音をした場合に出た音を、有声音といい、声を出さないで発音のみをした場合に出た音を、無声音という。

・はじめに、有声音の「ぶ」を出す。

・次に、有声音の状態から、だんだん声を抜いていき、最終的に無声音の「ぶ」にする。そのとき、子音の音量はなるべく変えない。

・最後に、無声音で子音の大きさをだんだん上げていく。


緑斗・紅黄「「できた!!」」

紅黄「初めてヒューマンビートボックスをした緑斗さん、今のお気持ちをどうぞ!」

緑斗「清々しい気持ちです!この調子で他の技もできるようになっていきたいです。」

 二人はハイタッチをし、次の練習に移った。

紅黄「次は何やりたい?」

緑斗「あのプシーってやつやりたい!わかる?プシー」

紅黄「う〜ん、あ、スネアのことか!」

緑斗「スネア」

紅黄「曲にさまざまな変化を与えることができる音だよ。」

緑斗「いいなそれ!教えて!」

ワクワクして教えを待つと、緑斗にとって意外な回答が返ってきた。

紅黄「教えたいところなんだが、実は種類が多すぎて、これ!という練習法がないんだよな、悪いけど自分でやりたい音を調べてくれる?」

緑斗「ちょっと待って、あれやりたいんだけど、名前がわからないから調べられないんだけど」

紅黄「そうだった、こいつ調べる能力がいちじるしく欠如けつじょしてるんだった・・・」

緑斗「そんなこと言わないで?!あの、カッってやつ!」

紅黄「あ、Kスネアっていう!」

緑斗「Kスネア やり方 検索っと・・・」

紅黄「あ、このmomomuriさん教えるの上手いからおすすめだよ」


Momomuri。ヒューマンビートボックス日本チャンピオンで、ミーファンを介して日本中のヒューマンビートボックスをしている人で技ができない人のために、技のやり方動画を投稿しているミーファナー。基礎の技から超高技巧ちょうこうぎこうな技まで、たくさんの技の紹介動画を投稿している。


緑斗「あの、秋間さん、ヒューマンビートボックスって、見様見真似みようみまねでやったダメなんですか?」

紅黄「別に、見様見真似でやっても誰もとがめないよ、それで成功してれば問題ないし、新しい技が開発される場合もある。ビートボックス界隈が広がるんだよね。」

緑斗「なるほど。まぁでもそれは今じゃないよな、基礎は大事だからしっかり正しいやり方でやった方がいいでしょ?」

紅黄「まぁ、そうだな〜。正直俺はどっちでもいい。」

緑斗「お前まじか」

紅黄「お前言うな」

こうして、緑斗と紅黄は一緒にビートボックスを練習して、順調に緑斗は成長していき、教える過程で紅黄の基礎音の質も良くなっていった。

 猛特訓が始まってから約八ヶ月が経ったある日、久しぶりに紅黄に呼び出された緑斗。

紅黄「きたか。」

緑斗「おう。」

紅黄「今日はな、今までと一味違うぞ。」

緑斗「わかってる、何をするんだ?」

紅黄「今日はな、緑にしてほしいことがあるんだ。」

緑斗「もったいぶらないで言えよ」

紅黄「それはな・・・」

緑斗「もったいぶらないで言えよ」

紅黄「緑に、ビートボックスのネタを作ってもらう。」

緑斗「もったいぶ・・・は?今なんて?」

紅黄「ビートボックスのネタづくり」

緑斗「まじか・・・。」

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