エピローグ

 存分ぞんぶんに柚乃のお母さんのジュエリーコレクションを堪能たんのうした翌日。

 学校の校門をぎたあたりで、永遠ともう一人見知った姿を見つけた。


「あ、かなちゃんおっはよー」

「……」


 朝の挨拶をしてくれた彼は爽やかな明るい笑みをこっちに向けている。

 朝日に金髪がきらめていた。


 ……澪音くん、まじでいた!


「……おはよう。てか、本当に学校来たんだね? 昨日あんなことしておいて」


 ムスッと不機嫌ふきげんをあらわにして文句を口にする。

 すると先に澪音くんにつっかかっていたらしい永遠が大きく声を上げた。


「だよな!? 俺も今文句もんく言ってたところでさ」

「文句っていうか言いがかりも入ってただろ? 学校に来たのはかなちゃんの血が目当てなんだろ、とか」

「え? 違うの?」


 昨日の出来事を思い返せばそんな理由なのかもって私も思ったけど、違うんだ?


「もー、かなちゃんまで……」


 ガクンと頭ごと肩を落とした澪音くんは、少しふてくされるように説明した。


「ヴァンパイアって言っても、今まで普通に学校に通ってたんだよ? 絶対に血を吸わなきゃ生きていけないわけじゃない。それに【アダマース】としての役割やくわりだって、近くにディコルの気配がある石を見つけたら悪い感情イラルムをいただいて次へ回すだけだし」

「え? そうなの?」


 今までもこっそり誰かの血を吸ってたのかなとか、【アダマース】にぞくする者としてバンバン石に呪いをかけまくってるのかと思ったけれど……。


「ん? でも待って、香ちゃんのローズクォーツに呪いをかけたのは澪音くんなんだよね?」


 昨日そう言ってたはず。と思い出して聞いてみると。


「ああ、あれは練習だったから」

「練習?」


 どういうこと? って続きをうながしたら、澪音くんは「俺はまだ半人前なんだ」って教えてくれた。


「何年も維持いじできるちゃんとした呪いをかけるには結構練習が必要なんだ」

「ああ、練習だからあんな原石に近い石にディコルをけてたんだな?」


 澪音くんの説明に私よりも永遠が納得する。

 説明を終えた澪音くんは、またニコッと爽やかな笑みを浮かべた。


「そういうわけだから、一応キミらとは敵対関係ではあるものの僕からは大したことできないんだよ」


 だからそんなにずっと警戒しなくても大丈夫って笑顔で言われて、うーんと首をひねる。


 大したことはできないって言ってもまた強いディコルを見つけたら奪い合いになるんだろうし、香ちゃんのときみたいな練習はまたするんだろうし……。


 いいのかな? って思ったけど、だからってみんなに澪音くんがヴァンパイアだってバラしたり【アダマース】のことを話しても、こっちが頭おかしいとか思われそうだよね。

 結局警戒しながら今まで通り過ごすしかないんだな。


 はぁ、と諦めのため息をはくと、頭の中に声が響く。


『カナメちゃん、大丈夫? また具現化してレイン追い払おうか?』


 今日もポケットに忍び込ませているトパーズの指輪、オウちゃんの声だ。


『大したことできないとか言ってるけど、カナメにとって色々危険な相手なのはたしかだよ。オウ、やっちゃえ』


(いやいやいや! ダメだって!)


 同じくポケットに忍び込ませたリオくんの言葉をあわてて止める。

 他にも登校中の生徒がいるのに具現化する瞬間を見られたら困るよ! 説明できないし!


 でも、私を守ろうとしてくれるリオくんとオウちゃんの思いは嬉しいし心強い。


(ありがとう、いざというときはお願いするから)


 感謝を伝えて、今にも澪音くんに飛びかかりそうなオウちゃんを止めた。



 そんなやり取りをひそかにしていた私の横で、澪音くんと永遠がまた言いあらそいをはじめてる。


「なんにしたって要芽にとってお前が危険な存在なのはたしかだろ? あんまり近づくなよ」

「えー? なんだよ嫉妬? さっきも『要芽は俺のパートナーだ! お前なんかに渡さない!』とか言ってたもんな」

「なっ!? 本人の前で言うなよ!」


 あたふたする永遠は私と目が合うとカァ! って一気に顔を赤くさせた。


「あ、コーラル永遠だ」

「は? なんだよコーラルって」


 不思議そうな永遠の顔色が一気にもどる。


「ん? なんでか永遠って私を見るとたまに顔真っ赤にするからさ。その赤さがサンゴみたいだと思って」

「……勝手に変な呼び方するなよ」


 力が抜けたようにうなだれる永遠。

 そんな永遠をあわれむような目で澪音くんが見てる。

 仲が良いのか悪いのかわからない二人だね。

 一応敵対してるからどちらかというと悪いんだろうけど。


 そんな二人を見比べていると、澪音くんは小さく息をつき視線を永遠から私に変えて笑った。


「まあ、これからも呪われた石をうばい合うことはあるかもしれないけれど、よろしくな」

「どんなよろしくよ、それ」


 今度は私がため息をつく番。

 呪われた石をうばい合う関係なんてゴメンだ。

 でも、それは避けられないことなのかもしれないとも思う。

 だって、私は永遠のシゴトを手伝うって決めたから。


「ねえ、永遠」

「ん? なんだ?」


 私の呼び掛けにうなだれていた頭を戻した永遠。

 まだ少し元気がなさそうな永遠に、私は決めたことをちゃんと伝えるために向き直った。


「永遠のシゴト、私手伝うことに決めたから」

「へ? い、いいのか!?」


 切れ長な目をまん丸にして驚いた声を出した永遠は嬉しそうにも見える。

 私が「うん」とうなずくと「よっしゃ!」って拳を握った。


「澪音くんみたいなのもいるし、やっぱり大好きな宝石が呪われてるなんてイヤだからね」

「僕みたいなのって……そんなこと言っときながら、かなちゃんの本音は手伝いにかこつけて色んな宝石を見ることなんじゃないのか?」


 澪音くんのツッコミに思わずギクッと肩を上げてしまう。

 私の反応に永遠はポカンと口を開けて間抜けにも見える表情になった。


「まじか……いや、でもどんな理由でも手伝ってくれるならいいんじゃないか?」


 驚いた様子だったけど、永遠はあごに指を当ててブツブツつぶやきはじめる。


 せっかく格好良くキメようと思ったのにこれじゃあ台無しだよ。

 私は本音を言い当てた澪音くんをジロリとにらむ。

 そうしていると、後ろの方から明るい声がかけられた。


「要芽ー、おっはよ! どうしたの? こんな所で止まって。早く教室行こう?」


 振り返って見えたのは、昨日の朝とは打って変わって元気そうな柚乃。

 その様子を見て、やっぱり呪いは祓った方が良いよねって改めて思う。

 大事な友だちの笑顔を守れたことを喜びながら、私は柚乃に応えた。


「柚乃、おはよー。そうだね、行こっか」

「あっ! 俺も行くよ!」

「僕も途中まで一緒に行こうかな?」


 柚乃と教室に行こうと歩き出したら永遠と澪音くんもついて来る。

 永遠は同じクラスだからいいんだけど、澪音くんまで……。

 まあ、階段のところまでは一緒だけどさ。


『まったく! レインちょーし乗りすぎ!』

『そうだね。いざってときには容赦ようしゃなくひっかいてやるといいよ』


 頭の中に響く声はなんだかちょっと物騒ぶっそうで。


(ほどほどにね)


 とだけ伝えておいた。



 四人で歩きながら宝石たちの声を聞いて、なんだか色んな意味でにぎやかになったなぁって思う。


 にぎやかになった周りを見ながら、私は宝物を見つけた気分で笑顔を浮かべた。


END

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宝石アモル!〜呪いを祓う転校生〜 緋村燐 @hirin

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