演劇

@urosu29

生活

長瀬桃佳。

高校時代は帰宅部だった。遅刻はしない。課題は全て出す。必要な分だけの友人はいた。放課後のチャイムがなり、ホームルームが終わるとまっすぐ帰る。

自分の生活のルールを守り、破ることはどんなことがあっても決してしない。その生活は桃佳を満足させていた。高校を卒業し、大学に入学してもその生活は変わらなかった。3年生になり、ゼミが始まりグループになって友人といることが多くなった。

7月23日。ゼミのグループでの飲み会に誘われる。桃佳は乗り気ではなく連絡を返せなかった。居酒屋で打ち上げをしていると、リーダー気取りな男が桃佳の隣に大きな音を立てて座った。激しな乾杯の音を立てて飲む彼は桃佳に急にもたれかかる。「どうしたの?」呼びかけても目を開けない彼はしばらくして止まっていた息を大きなイビキと共に再開した。落ちた手帳を開くと名前の書いた学生証と少しの小銭が入っていた。名前は永井やす。やすは桃佳の腕を掴んで離さなかった。普段飲むことが無い桃佳はいつも右腕につけている時計に気が回らなかった。気がついて焦って時計を確認する。時間は20時を回っていた。いつもの桃佳は帰ってお風呂に入り歯磨きをして寝る。そんな時間だった。時計を見るなり焦る桃佳は立ちあがり店を後にしようとするが、離してくれないやす。彼に静かに苛立ちを覚えながらもやすを連れたままタクシーを呼び、帰らせたあと桃佳も急ぎ帰路に着いた。時間が少し自分の生活ルールから遅れていた。桃佳はとてつもない怒りと共に22時の就寝の時間までにお風呂と歯磨きを終わらせなければならないことへの焦りで狂いそうだった。なんとか22時までに全てを終わらせ落ち着いた時には彼へのとてつもない怒りだけが残った。そんな時、着信音がなる。「今日はありがとう!迷惑かけてごめんね。また今度飲み行こうね」やすからの連絡だった。呆れた桃佳は怒りのままに返信をしようと文面を考えていると時計は10時に針を揃えた。やすに返信がくることはなかった。

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