第41話 ウェディングドレス
玲奈の悲痛な声にただ事ではないと感じた遥斗は、仕事を放り投げてタクシーに飛び乗った。
会議室のドアを開けると、6畳ほどの部屋にテーブルをはさんで玲奈とマネージャーの小西が無言のまま座っていた。二人ともその表情は固い。
テーブルの上には雑誌が無造作に置かれており、開かれたページには遠目でもわかる大きなフォントで「人気女優REINA熱愛発覚!?」と書かれている。
「これは?」
「違うの!遥斗信じて」
遥斗は玲奈の隣に座り週刊誌を手に取った。玲奈と男性がレストランで食事をする写真やラブホテルの前で手をつないでいる写真とともに、熱愛報道の記事が書かれていた。
玲奈は両手で顔を覆い、絞り出したような弱弱しい声で事情を話し始めた。
「そこに写っている男の人は、化粧品会社の人。ポスターの撮影が終わって食事に誘われたの。大口のスポンサーだから食事ぐらいならと思って、一緒に食事したの」
「ホテルの前の写真は?」
「食事が終わってタクシーが捕まる場所まで一緒に行こうっていわれて歩いていたら、ホテルの前で手を掴まれて無理やりホテルに連れ込まれそうになったところよ」
「それで、どうなったの?」
「もちろん、股間に蹴りをいれて帰ったわよ。私が好きなのは遥斗だけ。信じて」
涙が流れ始めた玲奈の言葉に嘘はなさそうだった。
週刊誌は明日発売だが関係者が発売前に持ち込んでくれたと、心神喪失している玲奈に代わってマネージャーが淡々と状況を説明してくれた。
ドラマや映画に多数出演して人気の高い玲奈の初スキャンダル。明日になれば週刊誌だけでなく、テレビのワイドショーの格好の餌食になるのは目に見えている。
残された時間はあとわずかしかない。出版差し止めの仮処分を申請しようにも、時間的に無理だ。
なら、虚偽報道で損害賠償の裁判をおこすか?
いや、それだと余計に火に油を注いでしまい、報道が過熱してしまいそうだ。
遥斗は週刊誌を睨みながら、解決策を考える。
いくら考えても遥斗は、解決策は一つしかないように思われた。しかし、それには多くのリスクを伴う。
涙で腫れた目ですがるような視線を送る玲奈を見て、遥斗は覚悟を決めた。
「玲奈、一つだけ解決策があるよ」
遥斗は解決策を玲奈に伝えた。玲奈は驚き、目を丸く見開いた。
「遥斗はそれでいいの?」
「うん、大丈夫。まずは家に戻ろう」
遥斗は玲奈の手をひいて、会議室を出た。
◇ ◇ ◇
10時という遅い時間に突然始まった記者会見にもかかわらず、会場となっているホテルの宴会場はテレビ、新聞、週刊誌の記者とカメラマンで埋め尽くされていた。
玲奈の関心の高さを改めて感じる。
壇上には玲奈と所属事務所の社長が、岩のように揺るがない表情で座っている。
遥斗は会見が始まる前に、そっと会場を離れ別室に待機している葉月と若菜の元へと向かった。
ドアを開けると、葉月は会見の様子を映しているモニターから視線を上げた。
「ちょうど良かった、今から始まりそうよ」
「玲奈姉ちゃん、緊張してるね」
遥斗は葉月と若菜に挟まれるように座り、モニターを見つめた。
モニターには玲奈の緊張した顔が映っている。
司会者に促され玲奈はマイクを手に取り、一呼吸おいて話始めた。
「今日は皆さま、夜遅い時間にも関わらずお集まりいただきありがとうございます。この度、REINAこと山尾玲奈は、結婚することになりましたのでご報告させてもらいます」
その瞬間、一斉にフラッシュがたかれモニターの画面は真っ白になった。
―——玲奈と結婚する
事務所から自宅へと戻った玲奈と遥斗は、葉月と若菜をリビングに呼んで結婚することを伝えた。
「ちょっと待って!アタシと結婚して、子供3人作るんじゃなかったの?」
「そうよ、わたしと結婚して子、日曜日には子供と一緒に近くの公園でピクニックするんじゃなかったの?」
「そんな約束してないよ」
玲奈と結婚することを伝えると、二人は椅子から立ち上がり玲奈との結婚を決めた遥斗を責めた。
二人のあまりの剣幕に遥斗はたじろいた。
「葉月と若菜、まずは座って。そして落ち着いて聞いて。明日発表される熱愛報道を押さえるためにも、先手を打って今晩玲奈が結婚する記者会見を開く。たしかに玲奈と結婚するけど……」
遥斗はそこでいったん言葉を区切り、背筋を伸ばし葉月と若菜を見つめた。
「葉月と若菜、二人とも好きだよ。玲奈との三人の中から一人だけなんて選べない。私の願いは、このまま四人で仲良く暮らすこと。玲奈とは籍は入れるけど、それは形式的なもので、二人が良ければこのままの暮らしを続けたい」
「でも籍がないと、わたし達の関係を結ぶものがないんじゃない」
葉月は当然の疑問を口にした。
「だから、子供を作ろう。二人に子供ができれば、その父親ということで法律的な責任も発生する。二人は未婚の母になっちゃうけど、それでもいい?」
二人は満面の笑みを浮かべたまま頷いた。
◇ ◇ ◇
厳かな静けさに包まれた教会は、ステンドグラスから差し込む光が床をカラフルに染めている。
祭壇にはウェディングドレスを着た4人が並んでいる。
牧師はいつもとは勝手の違う展開に戸惑いを隠せていない。
「では、ここにいる皆さまの前で、永遠の愛の証として、誓いのキスを交わしてください」
遥斗は床一杯に広がるドレスの裾を介添え人に持ってもらいながら、玲奈の元へと向かう。
白の光沢が美しいマーメイドラインのドレスは、細身で高身長の玲奈に良く似合っており凛とした美しいオーラを放っている。
遥斗はベールをめくり、そっと頬に口づけをした。
つづいて隣にいる葉月への元へと慎重な足取りで向かった。
シンプルなエンパイアラインのドレスをまとった葉月は、優しさに満ちていた。
遥斗が頬に口づけをすると、葉月は口角をあげ微笑んだ。
最後に遥斗は、若菜の元へとゆっくりと歩みを進めた。
ボリューム感のある裾と腰元の大きなリボンが目を引くプリンセスラインのドレスを着た若菜は、厳かな式にも関わらずその表情は笑みに満ちていた。
遥斗がベールをめくると、若菜は自ら遥斗に近づき吸い付くように遥斗の唇を奪った。
バージンロードを4人並んで教会の外へと向かう。
ドアが開くときれいな青空が広がり、左右には多くの参列者が並んでいた。
遥斗は左右に首を振り三姉妹と視線を合わせた。
「さあ、行こうか」
遥斗は一歩足を踏み出した。
恋のバトルロワイヤル!美人三姉妹となぜか女装して一つ屋根の下で、 葉っぱふみフミ @humihumi1234
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます