第6話

「こいつがイゴールから来た……」

 長身の男がジョニアの顎を触る。

「お前……この界隈の元締めか?」

「ふん……だとしたらどうする?お前には聞きたいことがある」

「言わないね」

 長身の男はそれを聞いてジョニアを平手打ちする。

「うっ」

「まぁ時間はたっぷりあるんだよ、俺はもう一人の男が怪しいと見てる」

「うるさい、話すことなんてない」

「そうか、それでお前、女だな」

「……!?」

「図星か」

 そう言って長身の男はジョニアの服をひん剥く。

「やめろ……!!!」

「ふん、胸があるな、やはり女か。もう一人の男とは付き合っているのかな?だとしたらそいつが辿り着くまで、楽しませてもらおうか」

「本当にやめろ!ゲス野郎!!!」

「威勢だけはいいな、それがいつまで続くか……」

 と、その時ガラスが割れる音が聞こえる。

「誰だ!?おい、見てこい」

 長身の男は部下にそう命じる。

「お前が傷物になった方が、絶望感は高いだろうなぁ」

「ぐ……」

「ふふ、肌は綺麗じゃないか、男のふりなぞせずとも……」

 そして、がやがやとしていた向こうの部屋が、完全に沈黙していることに気がつく。

「おい!向こうはどうなってる!?」

 誰の声も聞こえない。

「くそ」

 長身の男は業物の剣を取る。

「馬鹿め、俺を誰だと思ってる!昔は剣術だけでのし上がってきたのだぞ」

 そして向かい側の部屋に入る。

「う!」

 血、血、血、折れ曲がった体躯。鉄の匂い。

 部屋に入った部下の男は全滅していた。

「がっ」

 後ろからのしかかられ、肺から息を吐き出す。剣は足で弾き飛ばされる。

「お前が……くそ、離せ!」

「お前、ジョニアに何をした」

「ジョニア……?その怒りよう、やはりお前らは付き合っているらしいな」

「は?」

「なんだ、知らないのか?あいつは女だぞ」

「ばかな、なにを」

「ひひ」

 そうしてボンノルドは飛びのく、さっきまでボンノルドがいたところに毒で塗られたナイフが出現していた。

「ち、掠りもしないか」

「闇ギルドの連中か」

 暗闇の中、ゆらめく姿が、4、いや5体、フードを被った暗殺者たちがいることにボンノルドは気がついた。

「剣をここに……さあ、やろうか」

「お前らは懺悔して許しを乞うのが正解だ」

「それをしたらどうなる?」

 

「苦痛なくあの世へ送ってやる」

「だろうな」

 

 元締めのボスは闇ギルドの暗殺者の後ろに後退し、スクロールを読む。

「剣術強化!肉体強化!スタミナ強化!」

 そしてスクロールが燃え尽きると、元締めは剣を構える。

「やれ!」

 暗殺者は四方からボンノルドに襲いかかる。

 ボンノルドは苦もなく全ての攻撃を避ける。「なぜ当たらない!?」暗殺者の一人がそう叫ぶと、ボンノルドの正拳突きが頭にあたり、頭が炸裂し脳漿が飛散する。「!!」残った四人の暗殺者が後退し、スクロールを読む。「素早さ強化!短剣術強化!」スクロールが燃え尽きると同時に死角から襲いかかる。ボンノルドは素手のまま暗殺者の毒で塗られたナイフに拳を放つ。ナイフが砕け、毒で塗られたナイフの破片がボスに刺さる。

「ぐ、何やってる!」ボスの顔色が悪くなる。ボスは懐から毒消しのポーションを取り出し飲む。

 そのままボンノルドは暗殺者のナイフだけを狙い、ボスに向けて破片を飛ばす。「くそ」焦ったボスはボンノルドに襲いかかる。「リーシア流の剣術を思い知れ!」リーシア流剣術とは、強ければそれでいい、悪人も善人も貴賎しないという剣術で、強い悪人がよく使っていたりする。上段から振りかぶったボスの剣を、片腕で止める。その硬直した隙間を縫って暗殺者が暗器で襲いかかる。ボンノルドは足だけで暗殺者に応戦する。二人、内臓を破裂させて絶命した。あと二人だった。

「離せ!」そう言いながら、ボスは片手でスクロールを出して読む。「麻痺雷電!」剣を通して電流が走り、ボンノルドを感電させる。しかしボンノルドの服が少し焦げた程度で、ピクリともしない。

「こんなもんか、大体わかってきた」

 ボンノルドは低い声でそう呟く。そして剣から手を離し、右膝蹴りでボスを吹き飛ばす。流石にレベルが高いのか、ボスは即死せず、むせこむぐらいだった。手が空いたので残った暗殺者二人の頭を両手でそれぞれ掴んで、りんごを潰すように、飛散した脳漿とともに絶命した。

「なんなんだ!お前は!?」

 ボスの声に怯えが含まれていたが、ボスはもう一度剣を構える。

「最後に聞くよ、今までのことを懺悔する気は?」

「はっ!そんなことをする人間がここまで裏で大きくなるか?」

「だろうな」

 そうしてボンノルドは初めてモンクのスキルを使う。

「疾風撃破」

 

 粉微塵になったボスの血を浴びたボンノルドは、しけかけたタバコを取り出し吸う。そして深呼吸して、神経が落ち着くのを待った。2分ほど吸って、そういえば隣の部屋にジョニアがいることを思い出した。そしてジョニアが女だということも思い出した。

 

「ジョニア!」

「ボンノルドさん……!」

「お前、その体……」

「み、見ないでくれ」

 と言われたので、上着をジョニアにかけて、縄を解く。

「すまん」

「いいんだ……無事でよかった、ボンノルドさん」

「そっちこそ無事でよかった」

 一呼吸おいて、

「ボスは?」

「殺したよ、隣の部屋で死んでる」

「そうか……」

 そうして、ボスがいなくなった組織がどのようになるか考える。まず間違いなく次のボスを決めるための争いが始まる。そうするとそれに巻き込まれる人がどんどん出てくる。被害者を出す前に駆逐する必要がある。けれどこの状態の彼女を放っておくことはできない、まいったな。

「本名は……ジョニアンって言うんだ、男だらけの家庭で育ってさ、女だと憲兵団の人から馬鹿にされることがあるから、男のフリしていたんだ、ずっと」

「そうなのか」

「うん……でももう憲兵もやめるし、隠す必要もないね、なんとなくタイミングが掴めなくて、言えなかったんだ」

「いや、知れて良かったよ、旅路の途中で気を使うところがわかるから」

「うん、ありがとう。それでどうするんだい?」

「残党狩りをしようと思う。これを」

「この石は?」

「守護石だ。体を纏う結界が貼られて、暴力に対して身を守ることができる」

「ありがとう」

「しばらく、今日中に終わるだろうが、昔の俺の家で待っていてくれ、案内する」

「どこにあるんだ?」

「わからないように隠れた場所にある、それじゃ行こうか」

「うん」

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悪逆退治のボンノルド 夢見いるか @makumakumkura

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