情報と怪談。

仁智 勇

序文 薄闇

 現代社会は情報で溢れている。その情報の正誤にかかわらず、それらは私たちの思想、行動、性格などに干渉することで姿を現す。知識人や指導者に追従するだけで生きていくことができた時代とは相異なり、我々は生きるために情報を集め、不断に変動する環境に適応しなければならない。交通・通信の発達で拡張された世界において、必要な情報は我々の見聞きするものだけではもはや事足りず、インターネットなどのメディアからの情報が不可欠である。畢竟メディアは我々の感覚器官の延長上にある。いや、それはもはや我々の感覚器官の一部である。

 我々は「目で様態を見る」、「耳で音を聞く」のと同じように「インターネットで情報を受け取る」ということをしている。であれば、インターネットに巣くう現代怪談を我々は見聞きするのと同じように体験しているのだ。異類異形は“つながり”を辿って我々の背後に忍び寄るというが、体験こそ何よりも強いつながりであろう。科学の発展により怪異の存在は薄れ、人間と魑魅魍魎は隔絶されたとするのが通説だ。けれども、一見隔たりがあるように思われる我々と怪異の関係は情報化社会によってかえって接近した。

 ところで、あなたはこの文章によって怪異とあなたとのつながりを強く意識してしまっただろう。あなたは自ら怪異とのつながりを手繰り寄せたのだということはゆめゆめ忘れるな。

――あなたを蝕むそれは、あなたの背後の薄闇に。

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情報と怪談。 仁智 勇 @Jinchi_Isao

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