海の日に何やってんの?

家猫のノラ

第1話 世界転覆

海の日だから海に行く。そんな馬鹿な考えの日本人のなんと多いことか。

「焼きそば一つください」

「あいよー」

かく言う私もその一人なのだが。

海面を眺めながら、割り箸に張り付く麵を食らう。

おかしいよ、やっぱり、おかしいよ、うん。

一緒に海に行こうって言った。約束した。

そいつに彼女ができた。

そんでドタキャンされた。

てか友だちなの?ってよく言うけどさ、男女の友情ってよく議論されてるけどさ。

じゃあ二人の気持ちが完璧に同じじゃないといけないってこと?相手の気持ちなんか分かんないし、分かんないもんは考えなくてよくない?取り繕えてればよくない?キスしなければよくない?

ていうか下手すると自分の感情すら分かんなくない?好きな人と友だちの違いって何?どちらも人間として魅力的でしょ。私はなんであいつを好きな人としたんだ?

その人間としての魅力ってやつに何かが付け足されたのか?

その何かって何よって話よ。顔が良かった?センスが良かった?声が良かった?そんなもんじゃない?

最近こういうことばっかだ。ヒヤリハットじゃないけどさ、今日になるまでにちっちゃいモヤモヤがいくつも積り重なってきた。

小学校高学年ぐらいからおかしかった。普通にはまれなかった。

海に入っていないのに、頬が濡れている。

分かった。私悔しいんだ。

どんどんどんどん年を重ねるごとに、変わっていく、それが当たり前とされていく価値観、もはや人間としての倫理観においつけなくて。大好きって、大好きって思った時に言えなくなって。じゃあそれに反抗するだけの確固たる自分があるのかと言われたらそんなことはなくて。感情の端切れを恋だと握りしめて、裏切られたと、悲劇のヒロインを演じる自分がダサい。

「でもなぁ!!」

私は焼きそばを持ったまま立ち上がった。

おいしいよ、やっぱり、おいしいよ、うん。

そんな自分が私は可愛いよ。私ぐらいは可愛いって思ってやんないといけねぇんだよ。私は変わってやんないよ。ダサくしたお前が、お前らが、学校が、周りが、

「世界が変われよ!!」

私は海に向かって叫んだ。世界中に届きそうな大声で。

視線に刺されながら、浜辺に座りなおす。

みんな見てろよ。矛盾と曖昧と思いつきの、漫画のボスとしては大失格な、私の世界転覆だよ。


すっかりしょっぱくなった紅しょうがを、私は口に入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

海の日に何やってんの? 家猫のノラ @ienekononora0116

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ