第42話 夢で会う事になった後。

改めて女神は宮城光と白城さんに謝った。


その理由は確かに仕方ないし、神様ならそこまでやってやれよとも思わない事もない。


「宮城光さん。高城験さんとの仲には、ご両親とのトラブルも必要だったの…」


え?宮城の両親って、別の世界でも、あの小太りババアは小太りのまま宮城光に痩せろと言い、あのジジイは宮城を助けもしないで俺が正しいとか言ってババアと喧嘩してんの?


「白城蛍さん。高城験さんとの仲にはお母様のことも必要だったの…」


結局、白城さんは別の地球でも、母親を亡くし、母親の介護で青春を満喫できていなかった。


宮城光も白城さんもそこには文句を言わなかった。

ただ、一つのことを聞いていた。


「向こうの私と験は仲が良いですか?」

「うん。私もそれが気になります。験くんと仲良しならそれだけで幸せです」


女神は頷いてから微笑む。


「それは大丈夫よ。どちらの世界も幸せに過ごしてるわ」


俺たちはもう一杯アイス珈琲を貰ってから、女神が少し時間をくれと言った。


途端に女神の顔つきが変わる。

同じ顔なのに違う顔。

ひと言で言えば、違う漫画家が描く、同一人物に近い。


「こんにちは。突然ごめんなさい」


声に話し方まで違う。


「私は、彼女の身体を借りて挨拶に来たの。いい加減、直接話すように言われて断れなかったの。ごめんなさい。享楽の神…、男神にあなた達を助けてみたいから、この地球の時間を戻してほしいって頼まれて、力を使ったの。それがこの地球の為になるって思ったの。でもゲームのルールが厳しくなりそうになったりして、彼女に注意されて、その事が気になっていたの」


巡はその別の女神にお礼を言った。


「私の方こそ、験を助けてくれてありがとうございました。おかげで今も幸せです。喧嘩もしたりするけど、ずっと一緒の約束も果たせそうです」


別の女神は良かったと言って話は終わった。



・・・



こうして帰る時、女神はまたさっきの女神に戻っていた。


「もう、会うこともないでしょう。この日を仕組んだ奴は痛い目に遭わせたしね」


女神がドヤ顔で行った時、宮城光と白城さんのスマホが光った。


このタイミングで光るのってヤバくね?

不安に思う俺の横で、女神がキレ顔になっている。


「わ!」

「凄い!」


宮城光と白城さんが何かに喜ぶ横で、明らかに女神はキレている。


「何やってんのよ!」


女神がそう言った瞬間、俺の脳内にまた神の世界の景色が広がった。


「なんで、あの2人が夢の追体験なんて出来る事になってるの!?」

「落ち着いてください。博愛創造万能調停神」


怒る女神に近づいたのは、あのカミサマ3アプリの女神。


「装飾神!?だって享楽神が悪さをして!あの4人を大樹珈琲に呼び寄せただけでも良くないのに!なんで2人に夢の追体験の事なんてしてるの!?夢でも他の地球と縁が生まれたら良くないんだよ!?」

「博愛創造万能調停神、お言葉ですが、あの地球は誰のものですか?その地球を任された神が時空神と話し合って許可をした。もう何も言えませんよ」

「だからって、認識阻害までして、私にもギリギリまで黙ってるなんて酷い!」


なんかこう見てると、女神言っても、そんなに歳とか違わない、親戚のねーちゃんみたいだな。

俺がそんな事を思っている間、なんらかの罰で蹲っている男神が満足そうに笑っている。


それに気付いた女神は殺気を振り撒いて男神に声をかける。


「ちょっと?何笑ってんのよ享楽神」

「いやな、博愛創造万能調停神でも、マルチタスク中だと装飾神に隙を見せるんだなって思ってよ」

「は?」

「装飾神が見せてるんだよ。大樹珈琲の親子と、高城達に今のやり取りをよ」


目の前の女神も神の世界の女神もハッとなって俺達を見て怒り狂いながら景色が戻った。

その顔はとても怖かった。



・・・



女神は今日のことは忘れろと言い、巡にも夢での追体験とやらをやると言った。


「ごめんなさい赤城巡さん。フェアにしたいの。その代わり、夢の中と現実の乖離でおかしくならないようにしたわ」

「おかしく?」


俺が聞き返すと「人物よ」と女神は言った。


「さっき名前の出ていた高柳さんなら、違う名前と違う顔になる。その夢を見た時に違う人を見てしまうと、目の前の高柳さんに違和感を覚えてしまって、色々と良くないのよ。だから仮に違う世界の高柳さんを見ても赤城巡さんの夢の中では高柳さんなのよ」


なるほど。

巡がおかしくなるのは困る。


「じゃあ、俺ってどうなるの?」

「あなたにはないわよ。赤城巡さん達は自分がもう1人だけど、あなたはもう3人も居るのよ?同時に3人分の生活なんかを追体験したら脳がパンクするわよ」


確かに言われてみればそんな気もする。


「験、夢をみたら教えてあげるわ」

「いらない」

「なんでよ!」


俺は宮城光の申し出を断ると帰る事にした。



だが、外に出て驚いた。

数時間いたはずなのに、5分しか過ぎてなかった。


なにこれ…。


「神様って凄いねぇ」


驚く俺の横で巡はしみじみと言い、白城さんは青春を取り戻すと燃えたぎっている。

宮城光は前の撮影の時は、過度で無理なダイエット中のガリガリ宮城が訪れていて、グルメを楽しめなかったとして、食べたいグルメがあると言っていた。


疲れていたが俺は諦めて着いていった。

不思議と、混雑に巻き込まれなかったり、外国人観光客なんかとトラブルにもならず、夏のいい思い出になった。



ちなみに新学期。


俺は早速宮城光と巡から追体験の話を聞いた。

あっちの俺と巡は初めての交際同士で、追体験した巡は「なんか初々しかったよ」と言っていた。


宮城光の方は、2人だった時の仲睦まじさに震えたと言い、俺と再現したいと言い出してきた。


「やだ。俺みてないから無理」


そう言って誤魔化したが、別世界の話を聞いた俺は、何となく感慨深くて星野達に優しくしてしまったら、病気の再発を疑われて騒ぎになってしまった。


しくじったと思った時、男神の笑い声とともに「あー、やっぱ面白いわお前」という声が聞こえてきた。

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神様の試練ってあんまり意味がない。 さんまぐ @sanma_to_magro

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