第十一章:新たな誓い


 学院祭から一週間後の穏やかな午後、山本先生は職員室で生徒たちの変化についてレポートを書いていた。ペンを走らせながら、彼女の心は温かな感動で満たされていた。


 突然、ノックの音が聞こえた。


「どうぞ」


 山本先生が声をかけると、美樹、杏奈、さくら、琴音の4人が入ってきた。


「先生、ちょっとお時間いただけますか?」


 美樹が真剣な表情で尋ねた。

 山本先生は微笑んで答えた。


「もちろんよ。どうしたの?」


 4人は一瞬顔を見合わせ、それぞれが深呼吸をした。そして、美樹が口を開いた。


「先生、私たち……将来の夢について話し合ったんです」


 山本先生は興味深そうに4人を見つめた。


「そう、どんな夢なの?」


 杏奈が一歩前に出て、少し緊張した様子で話し始めた。

「私たち、卒業後も一緒に何かを作りたいんです」

 彼女の声には、これまでにない強さがあった。


「具体的には?」

 山本先生が優しく促すと、今度は琴音が静かに言葉を紡いだ。


「世界中の人々の心に届くような……何かを」

 琴音の目には、かつての孤独は影を潜め、新たな決意の光が宿っていた。


 さくらが続けた。

「音楽や言葉を通じて……」

 彼女の声は弾んでいた。

 かつての作り笑顔は消え、本物の喜びに満ちた表情だった。


 最後に美樹が締めくくった。

「一人一人が真の意味で未来を……希望を持てる未来を!」

 彼女の声には、リーダーとしての自覚と、仲間への信頼が滲んでいた。


 山本先生は、感極まって言葉を失った。彼女の目に涙が浮かんでいる。


「みんな……」

 山本先生は感無量な様子で言った。


「本当に素晴らしいわ。あなたたち一人一人の成長が、こんな素晴らしい夢を生み出したのね」


 美樹が真剣な面持ちで言った。


「先生、この夢……実現できると思いますか?」


 山本先生は立ち上がり、4人の前に立った。


「私は確信しているわ。あなたたちなら、きっとできる」


 その言葉に、4人の目に涙が光った。


 琴音が小さな声で言った。


「先生……私、初めてここに来た時は、誰も信じられませんでした。でも今は……」


 杏奈が琴音の言葉を受け取るように続けた。


「No estamos solos. ! Hemos aprendido a creer en la fuerza del otro!(私たちは一人じゃない。互いの強さを信じられるようになったんです!)」


 さくらが明るく付け加えた。


「そう! 私たちの個性を活かして、きっと素敵なものを作り出せるはず!」


 美樹が最後にまとめた。


「先生、私たちに教えてくださったこと、決して忘れません。これからも導いてください」


 山本先生は深く頷いた。


「あなたたちの成長を見守れて、本当に幸せよ。これからも、どんな時も応援しています」


 4人は感謝の気持ちを込めて、先生に深々と頭を下げた。


 窓の外を見ると、薔薇園が美しく咲き誇っていた。様々な色の薔薇が、調和を保ちながら輝いている。まるで、この4人の未来を象徴しているかのようだった。


 山本は心から思った。聖アンジェリカ女学院の新たな章が、確かに始まったのだと。そして、彼女たちが作り出す未来の世界が、きっと美しいものになるだろうと。


4人が部屋を出ていく背中を見送りながら、山本の胸に温かな希望が広がっていった。


(了)

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【短編小説】薔薇の棘と隠された宝石―ある全寮制女学院にて― 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi

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