力は華に孤高は拳に

釣ール

えがかれることのない一面

――二〇十七年秋某日午後十三時



 壁ドンが流行った年の次にやつあたりに近い形で

 青葉城傅あおばかでんは拳を壁にたたきつける。


 中学生でそんな当たり方をするなんて今のインターネットでころがる二十代後半たちのようで我ながら嫌気いやけがさすが大事な人が周囲しゅういに馬鹿にされ、コケにされて流せるほど心穏やかではなかった。


 沖縄から帰ってきた後、ひと試合リングで繰り広げていた二人兄弟。


 青葉兄弟はあちらで行われた興行のひいき判定にも文句ひとつ言わずだまって帰ってきたのだ。

 兄の高校生、青葉白曜あおばしおうは野心をかかえていても人には決してそれをしゃべらない。


 青葉城傅あおばかでんも中学生ながらほぼ何かを口にしない兄のファイターとしての姿勢にはげまされていていつか自分も理不尽しかないこの世という地獄で勝ち上がることを決めている。


 世界は自分たちに優しいように出来ていない。

 白曜は堂々と戦ったのに負けさせられた。

 それでも残酷な世界をのぞんで選んでリングに自分たちは上がっているのだ。


 誰にも理解されない葛藤をいだきながら人間の負の側面をリング外から受ける。

 それがどれだけ孤独なのかを押し付けずに生きることが常人じょうじんには理解されない。


 近くにあったスーパーで大量買いした炭酸ジュースを飲みながら青葉城傅あおばかでんは怒りを胸に晴れない気持ちを沖縄から帰ってきてからずっと持ち帰っては次は誰にも物にもぶつけないようにしていた。


 しかしもう我慢できない。

 そもそもここへ炭酸ジュースを買いに来たのも目的があった。



『秋のモノノ怪』



 ウワサが関東のあちこちで広がっていたのだ。

 都市伝説と心霊現象の風化や時代の変化によって真実があいまいなのをいいことにある新興宗教カルトがうみだした妖怪がいま青葉城傅あおばかでんがいる廃墟に住まうと。


 近隣住民きんりんじゅうみんの話ではまるでクマやハチのように人を攻撃するという。


 小遣い稼ぎもふくめここへたどり着くためにファイターであることを土地の持ち主に許可を得るため苦手な説得や交渉もしていた。


 人助けでも仕方なく読んでいる自己啓発本をうのみにしているわけじゃない。



 こちらはストレス発散で霊を倒して対価たいかをもらう。



 むこうは得体の知れないモノノ怪を退治して日常を取り戻す。



 フェアな取引とりひきとして成立している。

 ただ心霊現象やモノノ怪なんて簡単に現れない。

 警戒心の強いウシガエルがごとく日中にも夕暮れにも現れない。

 流石に夜遅くは規制の厳しい関東の森林地帯でも長居はできず、中学生で終電も逃すわけにはいかないのであらっぽいがモノノ怪に早く出てきてもらうようにあおることにした。


 具体的な降霊術は知らなかったがふるくから『こっくりさん』を一人で簡単な方法でやってみることにした。


 こっくりさんをやっている最中、十円玉の手をわざとはなすとすぐにここのモノノ怪かこっくりさんの手順違反によって現れたものかわからない人と同じたちかたの何かが廃墟へ降りてきた。



「へっ!やっとこのこぶしあしが使える!! 」



 保護どころか退治を依頼いらいされているのでぞんぶんにモノノ怪と戦えることに青葉城傅あおばかでんは闘争心をあらわにして体術を使う。

 もちろんモノノ怪もただではやられない。



 誰が相手でも青葉城傅あおばかでんにとって不足はない。



 モノノ怪のふいうち前提ぜんていの攻撃も

 城傅は恐れずに予測よそくしてカウンターをねらい、モノノ怪の一撃が腹筋に命中しても平気な顔で城傅は口から血をつばと共にだす。



 ここまで武闘派な怪異かいいがいるとは思わなかった城傅は戦いをくりかえす。



 モノノ怪の爪をよけてあごをアッパーでくだき、よろめくモノノ怪は霊気で廃墟にあるゴミをくりだして城傅へなげつけるが中学生格闘家にはたいしたマジックでもなく子供だましですらない。



 ただ無茶をし続けたからか途中で足に疲労がたまり、城傅は膝をつく。



「くそっ!大人や先輩相手に決して倒れない俺が」



 万事休ばんじきゅうすか。

 あきらめたつもりはないが疲れを知らないモノノ怪は攻撃をとめることをなく城傅は後方へよけそうとすると



「どこで油を売ってるのかと思ったらここにいたか」



 その声は兄、青葉白曜あおばしおうだった。



「なぜここが? 」



 白曜はこの廃墟の地形を知りつくしていた。

 まさかここは。



「遊び場にここを使っていたんだ。内緒でトレーニングしたかったし、ついでに霊現象も知りたかった。まさか城傅がここの化け物退治を任されているとは知らなかったが」



 モノノ怪は白曜に攻撃されて口をあけていた。

 とくに会話をかわすこともなく二人は目を合わせてうなずき、モノノ怪へと抜群のコンビネーションで戦った。



 何時間か経過し、いつの間にか二人とモノノ怪は倒れていた。

 そこへ管理主がモノノ怪を回収し、二人へ報酬ほうしゅうを支払う。



 やっほー現金だぜ!と喜ぶ兄、白曜を見て城傅にも笑顔が戻る。



「終電どころか夕方に帰れそうだ。助かったよ」



「心霊現象とは違うがまさか非現実がもうひとつあったとは。せっかくだ。俺たち二人で関東地区の心霊スポットと秘境ひきょうでもみつけようぜ」



 人の悪意がひろがる時代で見たこともない世界がリング以外にもあるのはインターネット世代の自分たちにとってはブラックボックスだった。



 それから二人はトレーニングと共に探索や散策をはばひろく行うようになった。

 怪異かいいをたおせるレベルになったことに気分がいいのと、この調子で自分たちにはだかる格闘家を倒していこうと兄弟で誓う日常を今日も送る青葉兄弟。



 秋に心霊なんて変だと思ってしまった城傅は固定概念こていがいねんをはずす練習もすることでリング外の現実も生きていく。

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