第6話 月と一万円札
テストの結果が返ってきた。
結果は上々。
父にも母にも褒めて貰い、なんと、臨時のお小遣いまで貰えた。
ポチ袋に入った一万円。高校一年生のわたしにとっては大金だ。
何に使おうとワクワクする。
思い切ってゲームに課金してもいいが、ここは手元に残るものを買おうか。
ずっとブックマークしていた、イタリア万年筆の通販サイトを見る。
緑色にピンクの水玉模様のスチールペン。
まだ残っているといいな……なんて、願いつつ、在庫をチェック。
「あった!」
思わず声が出てしまった。
すぐさま、決済ボタンをポチリと押す。
お買い上げありがとうございますの文字が画面に写っている。
ちゃんと買えたのか、メールボックスも確認。
「……よし!」
控えのメールが届いている。
思わずガッツポーズを決めてしまった。
〈よかったじゃないですか〉
最近嬉しかったこととして、万年筆が買えたことを報告したら、そんな返事が返ってきた。
彼女、もやしさんは、小説・お絵描き系投稿サイトで相互フォロワーになって長い間柄。
多彩な絵が描け、なんでも出来るので、とてもファンが多い。
そんな彼女は、零細字書きのわたしを何故か気に入ってくれている。
文からイメージした作品を描いてくれるのだが、あまりにも美麗で、こんな拙いわたしの文章に……と恐れ多くなってしまう。
あまりにも絵が達者なので、年上だと思っていたのだが、最近見ていたアニメやゲームの話をしたところ、同世代だったことが判明した。
同世代でこんなに絵がうまい人がいるなんて、すごい世の中だ。
〈ずっと欲しかったので嬉しいです〉
〈ほっけさん、万年筆お好きですもんね〉
〈母に譲られてからずっと好きですね~〉
〈私も買ってみようかな〉
〈え!なんならわたしがプレゼントしますよ!いつもお世話になってますし!〉
〈お気持ちだけ受け取っておきますよ。同い年だし、金銭事情は把握してますって〉
〈もやしさんは優しいなあ〉
〈そんなことありませんよ〉
〈そうだ、聞いてください〉
不思議な先生と、母に出された宿題の話を切り出すと、いつもは速やかにタイプしてくれるのに、やや時間をかけてから返信が返ってきた。
〈う~ん……難しいですね……〉
〈ですよね〉
〈ヒントはその、方言と、海辺に住んでいて、あと戦火が激しかった場所、ですか〉
〈はい〉
〈私、実は最近北海道に移住したんですけど〉
〈そうなんですか!?〉
〈北海道にもありますよ、そういう方言。海も近いけど……でも、戦火か……〉
〈そうなんですか……〉
〈せめて、なにか……どこ地方かだけでも絞れると良いですね〉
〈ですねえ……〉
〈そうだなあ、CMとかどうですか?〉
〈CM?〉
〈ええ。地方にしかないローカルCMってあるんですよ〉
〈そうなんですね……〉
〈北海道だと、登別の熊牧場が有名ですね〉
送られてきたURLを開く。うーん、面白い。
〈分かりました!ちょっと聞いてみます!〉
〈宿題、終わるといいですね〉
そう優しい返事が返ってくる。本当に、いい人だ。
北海道と言えば、やはりアイヌの存在抜きには語れない。
『アイヌ神搖集』を借りよう。
今日も森山先生は何かせわしなく手を動かしていた。
折り紙を折っているようだ。
鶴を何匹も折っている。千羽鶴でも飾るのだろうか。
「こんにちは」
「ホホ、こんにちは」
「どうして鶴を折っているんですか?」
「いえね、飾ったらこの図書室も華やぐんじゃないかと思って」
「なるほど……」
「手作業は好きなので、掲示物も作りたいですね。よかったらご一緒にいかがですか?」
「あ、ハイ」
手を動かしている森山先生が楽しそうなので、見よう見まねでやってみる。
折り紙なんて何年もやっていない。
でも、以外と手は覚えているもので、不格好ながら何とか一羽折り上げた。
「いいじゃないですか」
「いやいや、先生には負けます。お上手ですね」
「ホホ」
「今日は何を読みますか?」
「『アイヌ神搖集』ありますか?」
「ああ……最近アイヌについて尋ねられる機会増えましたからね。おそらくあります。漫画の影響かしら……じゃあ、今回も私のおすすめ本を持ってきますね」
先生が持ってきたのは、『アイヌ民譚集:えぞおばけ列伝』。
「こちらの本は、『アイヌ神搖集』の著者の弟さんが書かれた一冊です」
「そうなんですね……」
「もう、お下劣でびっくりするかもしれませんね。こんな本、高校生に薦めたらいけないかしら」
う、うーん……ショウタロウ・コンプレックス発言といい、この人、ちょっとカゲキだよなあ……
「あ、そうだ先生」
「はいはい、何ですか?」
「先生のふるさとで流れていたCMとかありますか?」
「CMですか……カステラ一番、とか?」
「他には?」
「うーん……行こう、行こう、湯の国へとか……考えてみると、私のふるさとって、特徴的なCMがないかもしれません」
「そうなんですか?」
「はい。地方テレビ局がないんです」
「そんなところあるんですか?」
「うーん、ありませんでしたねえ……だから、旅行に行って、地方のニュースとか見るの好きです」
地方テレビ局がない場所。
これは大きな一歩かもしれない。
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高校当時の服装は 緑青 那奈畸 @koukyu_ss
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