勇者パーティを追放されたオレは、始まりの村のお花畑で微笑むモブ村娘を絶対に振り返らせたい.12【完】

 リンクスの村。


 私は今日も水をあげる。

 花壇の花たちを、大切に育てる。

 いったいいつからそうしていたのか。

 もう覚えていない。


 その昔、私は冒険者だった。

 パートナーも居た。

 そのひとは、いつも悔しそうにしていた。

 なんでも、パーティを追い出されたとか。

 だから伝説の黄金の鎧を手に入れるんだと、口癖のように言っていた。

 勇敢なひとだった。

 私をいつも庇い、いつも守ってくれた。


 ある時、私は大怪我をした。

 ちょうど、リンクスの村近くだった。

 あのひとは、私を背負って急いで宿屋に運び込んだ。


 怪我は治った。

 けれど、そのひとは、もう私を冒険に連れていくことはしなくなった。

 とても寂しかったけれど、あのひとが私を好いてくれているのがわかった。


 苦しい、と思った。

 寂しい、と思った。


 私は、村はずれの花壇のお世話をすることにした。

 そうしていると、忘れられるから。

 楽しかった思い出も、愛しいあのひとのことも。


 でも、大切な思い出を忘れようとすることを、天の神様は許さなかった。


 ある夕方のこと。

 夏の暑い日だった。


 夕陽は竜の形になって、空から降ってきた。

 神様はとても怒っていた。

 とても。


 ……


『長らくこの世界に留まると、転生してきた記憶を忘れてしまう人もいるんだとか!』


 ……


 そして私は、気がついたら花壇に水をあげていた。


 いったい、どれくらいの長い間ここにいるのか、もうわからない。

 前はもっと笑えたはずなのに。

 喋れたはずなのに。


 だれを待っているのか、もう──


「おい」


 もう──


「おい、モブ子」


 そう。

 そうだった、私の名前は──


「モブ子ったら」


 そのひとが名付けてくれた。

 チューリップの花束を抱えたその人が。


 ──やっと、やっと思い出した。


「……ただいま」


 私の大切な、アルベルトくん!

 私は彼を、思いっきり抱きしめた。


「おかえりなさい はじまりのむら リンクスへ! みてみて このおはな キレイでしょう」



【第三章.完】

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アザミの箱庭 「大好きなお兄様を守れなかったバリキャリウーマンの私が幼女に転生したので、次は絶対に大好きなお兄様を守り切ります!!」 杏樹まじゅ @majumajumajurin

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