勇者パーティを追放されたオレは、始まりの村のお花畑で微笑むモブ村娘を絶対に振り返らせたい.11

「ハンナ・ベルは、灰になって死ぬ。過去の貴方が、黄金竜を倒さなかったから」


「それで貴方はお願いしたの。わたしのお友達にね、やり直しの神様がいるから。その子に」

「けど、そのやり直した記憶は……」

「ええ。わたしに対価として差し出しちゃってたわね」


「そうか……オレは……ずーっとバカやってたんだな。記憶を対価に、パーティを見返す為だけに生きてきたんだな」


 オレは地に伏せたまま、涙を流した。


「復讐は悪いこととは思わないけど。まあ、そうなるわね。……黄金竜を倒さずして黄金の鎧を手に入れ、パーティにもどった貴方は、故郷のリンクスで、なぜかハンナ・ベルに愛着をもつ傾向にあった。ただのNPCの村娘に」


 ……そうだ。

 オレは、あの子が何故か好きで好きでたまらないんだ……


「こればっかりはわたしもわからない。『やり直し』のあの子なら、わかるかもしれないけど──まあ、それで」


 またオレの前にしゃがんで、デコッパチに人差し指を当てた。


「貴方は復讐の螺旋から、抜け出すことが出来たわけ」


 オレはハッとする。


「じゃあ……この竜を倒せば……!」

「ええ」


 にっこり、笑う。


「貴方はまた、ハンナ・ベルに会えるわ」

「……じゃあ、契約だ、復讐の女神さんよ」

「ふふふ」

「オレは、自分を螺旋に閉じ込める元凶になった、あの黄金竜に復讐したい!」

「そうこなくちゃ!」


 シッスルは立ち上がって両手を開いた。

 とても、嬉しそうに。


「強敵よ。それ相応の対価がいるわ。何にしようかしらね……?」

「そんなの簡単だ。……オレの……」


 オレは覚悟を決めた。

 もう、オレは逃げない。

 逃げたくない。


「オレの、命だ!」


 はああ。

 シッスルは両手でほっぺたを覆って、うっとりした。


「久々の上客! うふふふふ、友達のあの子も、きっと今頃上機嫌でしょうね!」


「さあ、もってけ! ニセモノ勇者の、魂を!」


「ええ、頂くわ。でも、覚えておいて? 復讐は美味しい前菜オードブル。貴方が幸せになるための、美味しい美味しい、ごちそうだよ。貴方は必ず幸せになる。してみせるわ」


 そういうと、シッスルはオレの顔を持って、口付けをした。

 ──倒れて動かなくなった身体に、無限の力が宿るのを感じた。


 ……


 一秒後。

 黄金の火炎が、オレのいた場所を薙ぎ払った。


「他愛モナイ……」


 黄金竜は勝利を確信して目を逸らした。

 その時。


「迂闊なやつだ! このオレ様を前に油断なんてなあっ!」


 空高く飛び上がったオレは、竜の心臓に剣を突き刺した。


「グアアッ」


 竜の血は、灼熱の炎だった。

 心臓から吹き出した炎に身を焼きながら、オレは笑った。


「モブ子、ハンナ、見てるか! オレは、オレは今やっと! やっと勇者になれた! 勇者になれたぜ! はっはっはっ!」


 大きな声で笑った。


「はっはっは! ざまーみろー!」


 とても、大きな声で。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る