第2話 異世界転生(2)
目を開けると、木々の間からこちらを覗く太陽が、俺の目を刺激した。
その眩しさから逃れる為、手を額の方へと持ってこようとしたが自由に動かない。
何をしようとしても身体が言うことを聞かない。
身動きが取れないのだ。
「あぅ、ばぁ! うぅ、、」
何とかもがこうとしてもまるで赤ん坊のような声が喉から出るばかり。
足掻いても無駄だと気付いてしまったので、眼だけを動かし、辺りを見渡す。
木と葉っぱ、水で湿った土の匂い。
布で包まれているであろう俺の身体は、凍りついてしまうのではないかと疑うほど冷たい。
太陽の光は殆ど木々によって阻まれ、ここら一体の景色は俺に、「不気味」と言う印象を与えた。
寒い、息が苦しい。
助けを呼びたいが声が出ない。
ここが、異世界……?
俺って勇者じゃないのか?
あの女神に嘘をつかれた、?
こんな所で死にたくない。
⦅おうおう、死にたくないよな!
もっと足掻いてみろよ、ガキ⦆
……!?
なんだ、? 今の声……。
⦅こんなちんちくりんな姿になりおって、これが俺の後世なんて恥ずかしいぜ⦆
まさか、この声、女神が言ってた、
勇者……?
(おい、聞こえてるなら返事をしろ、お前は勇者か?)
⦅…………⦆
返事はない。
自分の都合のいい時だけ話しやがって……
と言うか、脳内に直接話しかけられると、とても気持ち悪い。
頭痛がする。
ここら一帯に漂っている不気味な空気も相まってインフルエンザにかかった時と同じような気怠さがある。
息が苦しい。
身体の節々が悲鳴をあげている。
このままだと、ここで死んでしまう。
「おい! 赤子が捨てられている!」
「え!? こんな危ないところに!?」
誰かの声が聞こえる。
若い男女の声だ。
「あぅ〜、ぅう〜」
相変わらず、俺の喉からはか細い声しか出ない。
「この子、相当衰弱してるぞ!
この辺りは魔素が濃い! 赤ん坊には毒だ!」
「あら、大変! 急いで回復魔法を掛けてあげないと!」
魔法?
女神からその存在は聞いていたが、まだまともに信じることができない。
魔法なんて、非現実的すぎる。
なんて思っているうちに、若い女の方が俺の頭に手をかざし、よく分からない詠唱? のようなものを始めた。
「回復の礎となるは潤いの力、翠の力に抗うものは邪悪なり、かのものに再び立ち上がる力を与えん。【エクストラヒーリング】」
よく分からない呪文を唱え終わったと思った瞬間、俺の視界が緑に覆われ、それと同時に頭痛を始めとする、身体中の痛みや苦しみが消え去った。
身に染みて実感した。
これは魔法だ。
物理的にあり得ないことを目の前でやられたら、それは魔法以外の何物でもないだろう。
そう、この世界には魔法が存在するのだ。
ラノベや漫画を見てあれほど憧れていた魔法が。
「よしよし、もう大丈夫だぞ! 今家に連れて帰ってやるからな」
「こんなところで辛かったでしょう、もう安心してね」
2人の男女に抱え上げられた。
俺は2人の腕の中に今まで感じたことのない落ち着きを覚える。
その落ち着きのせいか、俺の瞼は急に重くなり、それに抗うこともなく目を閉じた。
ーーーー
「あら! あなた、起きたわよ!」
「ほんとか!? よかったよかった!」
目を開けると、森の中で拾ってくれたであろう若そうなカップルが嬉しそうにこちらを見下げている。
辺りを見渡すと、木で作られた小屋のようなものの中にいるのだと分かった。
突き刺すような太陽の光の代わりに赤黄色に灯る目に優しそうなランプがこちらを覗いている。
赤子用の木造ベッドのような所から若い女性に抱え上げられる。
間違い無いだろう。
俺は赤子に転生した。
「あぅ〜、あぅ〜!」
どれだけ言葉を発そうとしてもまともに喋ることができない。
知能だけを持った赤子も不便なものなのだと実感する。
「ねぇあなた、この子に名前付けてあげましょうよ!」
「そうだな! なんで名前がいいだろう」
この人たちは俺を育ててくれるのだろうか。
まともに育児というものを施されたことがないので、どのようにすればいいのか分からない。
それにしても、名前、か。
俺は日本にいたとき、親から名前で呼ばれた記憶がない。
「お前」、「ゴミ」、「ガキ」などと呼ばれていた記憶ならあるが……。
学校でも苗字でしか呼ばれなかった。
そのような記憶から、俺は「名前」にいい印象を持っていない。
名前なんてただの呼び名だ。
なんだっていい。
「何にしようかしら! かっこいい名前がいいわよね!」
「そうだな! かっこいいと言えばやはりドラゴンか!」
おいおい、なんでもいいとは言ったが、流石に厨二じみた名前はやめてくれ。
ドラゴンって、流石にかっこ悪すぎる。
俺をみんなの笑い物にする気か!?
「おい、この子の顔、心なしか嫌そうに見えるぞ」
「あら本当ね、なら違う名前にしましょう!」
はぁ、よかった。
「なんちゃらドラゴン!」とでも呼ばれた暁にはこの男女を一生恨んでいただろう。
「そういえば、極東の国ではドラゴンに似たモンスターでリューっていう名前のモンスターがいるらしいわ!」
「リューか! いい響きだ。それならリューライって名前はどうだ!?」
「いいわね! リューライ!」
なんの因果か、俺の名前は前世と同じ
***「若い女視点」***
森の中で1人の赤子を見つけた。
私は昔冒険者をやっていたからか、正義感と責任感が人一倍あると自負している。
赤子の顔を覗いてみると、とても苦しそうな、もう人生を諦めているような目をしていた。
この子は、見つけた私たちが幸せにしなければならない。
そう思った。
赤子は相当重症だったため、その場で回復魔法をかけてやると、とても気持ち良さそうに私の腕の中で眠ってしまった。
とっても可愛かった!
2年前、1つの命を授かったことがある。
10ヶ月もの間、お腹の中で育て続けた。
それでも、この世界は残酷なもので生まれる前に死んでしまった。
そう。流産だった。
私は何ヶ月も塞ぎ込み、一時期は死んでしまおうかとも考えた。
夫のダビルがいなければ、とっくに自殺していたかもしれない。
流産の後遺症が残っているらしく、もう子を孕むことはできないと専門家に言われた。
ダビルは多分、子供が欲しいと思い続けているだろう。
そう言われたことも、態度に出されたこともないが、わかってしまう。
必死に私を傷つけないようにその感情を隠していることを知っている。
一つの命を守ることもできなかった私を、神様が咎めているのだと考えたら、当然だろうとも思った……。
本当に、辛かった……。
その反動もあってか、今、腕の中にある小さな命がとても尊く感じる。
この子だけは元気に育てないと。
そんな責任感も生まれた。
「大丈夫よ、あなたは私が育ててあげるからね!」
そう言って、まだ会って数分の赤子をそっと抱きしめた。
***「若い男視点」***
森の中で1人の赤子を見つけた。
俺は昔冒険者をやっていたからか、正義感と責任感が人一倍あると自負している。
赤子はとても辛そうな顔をしていて、俺たちが守らなければならないと感じた。
とても重症だったため、応急処置として妻のサラが回復魔法をかけた。
その後、サラの腕の中で眠ってしまった小さな命に感動を覚えた。
2年前、俺とサラは一つの小さな命を授かった。
サラは元々、子を孕みにくい体質だったため、妊娠したと聞いた時は嬉しさのあまり涙を流した。
10ヶ月もの間、サラとお腹の中の命をとても大事にした。
サラが起きている間は付きっきりでお世話をして、サラが寝ている間に食料を入手しに外へ行き、家事を済ませた。
1番頑張っているのはサラとお腹の中の子だ。
何か少しでもサポートしようと全力を尽くした。
愛すべき、そして守るべき存在が一つから二つに増えようとしていた。
だが、生きた子供の姿を拝むことはできなかった。
あれだけ身体の調子に気を遣っていたにも関わらず、子は死んでしまった。
そう。流産だった。
サラは自分のせいだと負の感情を抱え込んでしまった。
何度も何度も俺に「ごめんなさい」と言い、全ては自分のせいだと数ヶ月もの間塞ぎ込んでしまった。
そんなサラの姿を見ていると、子を失った悲しみよりも目の前にある命を守らなければと言う責任感が大きくなった。
数ヶ月もすると、サラの様子も良くなって、元の日常が戻った。
ただ、子供が欲しいという願望だけはずっと脳の片隅に残り続けている。
それでもその願望がサラにバレないように必死に隠している。
サラは責任感の強い人だ。
「自分のせいで、ごめんなさい。」
と言い、また1人で抱え込んでしまうだろう。
そんな過去もあるからか、今目の前にある小さな尊い命が、とても可愛らしく見えた。
「大丈夫だぞ! 俺が守ってやるからな!」
そう言って、愛すべき、守るべき二つの命をそっと抱きしめた。
二重人格の主人公。もう1人の自分【勇者】と共に異世界を攻略する〜陸海空3つのダンジョンで最強を目指す〜 けーすけ @keisuke0506
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