さぁ、選べ。私と死ぬか、私に仕えるか

「それでですね、その時理事長様が~」


 ジンジャーは、ソルシーに学園に入ってからずーーーーーーーーっと理事長の話をしている。


 ソルシーはニコニコとしているが、相槌を打っているだけだ。


「・・・と、物凄くかっこよかったんですよ~!!!」


「へぇ~」


「あ、着きました!!」


 長い廊下の先に、大きく重そうな扉。


 ジンジャーは、扉の前で止まると一礼して戻って行った。


「・・・」


 ソルシーは、ドアノブに手を掛け、右に回す。


"カチッ"


 ・・・ドアノブを回したとは思えない、妙な音が廊下に響く。


"バチンッ!!!"


 窓の外の晴れていた空が、急に真っ暗に染まる。


 もはや、何も見えない。


「・・・随分と面倒な事、仕掛けましたね」


「これくらいしないと、お前は逃げるだろう?」


「当たり前じゃないですか~」


 ソルシーは、身動き一つしない。


 おそらく、何か魔法の仕掛けがあるのだろう。


 この前の束縛魔法のように。


「で、何させたいんです?」


「ふふっ」


「なーに、笑ってるんですかー???」


 ソルシーは、笑われたのに少しイラッときたらしく、挑発するように言った。


「悪い悪い、もう抵抗しないのだな」


「抵抗してどーするんですかー??どーせ、私じゃあなたから逃げられないのにー」


 ソルシーの言葉に反応したのか、彼女の右肩の方から棘のある・・・薔薇の茎のような模様が伸びて来る。


 呪いの類だろうか。


「くくくっ・・・」


 どこからともなく暗黒の中響く声は、不気味に笑った。


"パチンッ"


 何かが弾ける音がすると、一気に周囲が明るくなり、重い空気も解けた。


「いやー、変わっていなくて安心したよ。エール」


 部屋の奥にある椅子に座っていたのは、長い赤髪の女性だ。


 ソルシーは、彼女の姿を見ると途端に嫌そうな顔をした。


「魔法学園で理事長やってるのは、まぁまだ許容範囲として・・・」


 ソルシーは、『耐えきれない』と言わんばかりにため息をついた。


その女装・・・・、ここでもやってるんですか?」


「まぁな」


 理事長は、自分の綺麗な長髪をサラッと靡かせた。


 ・・・どうやら、この女性・・は女装しているらしい。


「・・・で、何なんです?あなたが、わざわざ私を呼び出すって何させる気で??」


 ソルシーは『今までもろくな事がなかったんだろうな』と悟らずにはいられないような目で、理事長を見た。


 理事長も理事長で、『よくわかってるじゃないか』と言わんばかりの笑みでニヤッと笑った。


「エール。君には、この学園に入ってもらいたい」


「は・・・」


「の!!だが!!!ね」


 ソルシーの言葉を遮り、理事長はいきなり大声を出した。


「知っての通り、ここは魔法学園・・だ。つまり」


「試験、ですか」


 次はソルシーが理事長の言葉を遮り、10tくらいあるんじゃないかと思わせる程の重いため息をついた。


「はぁぁぁぁ・・・」


「まあまあ、そう落ち込んでくれるな。パンは食べ放題だし、ここならドラゴン以外の強いやつらなんてうじゃうじゃいる。暴れん坊で食いしん坊のお前なら、願ったりかなったりだろう?」


「・・・私の事、何だと思ってるんです??」


「狂暴な豚」


"ガキンッ"


 上からどこからともなく現れた大剣を、ソルシーはガシッと握り、床に突き立てた。


「ぶっ殺してさしあげましょう♪」


 今までにないほどの殺気。


 ビリビリと空気が震える。


「こらこら、その姿で死刑宣告は似合わないぞ~」


 そんなソルシーを前にしても、理事長は笑顔を崩さない。


 まるで、ソルシーが攻撃してこないのをわかっているように。


 それから、『ああ!!』と言いながらポンッと手を打った。


「あれ~、もしかしてぇ、エールは怖いのかぁ?」


「はい??」


 床から大剣を抜いたソルシーは、理事長の言葉に眉をひそめた。


「この学園は、それなりに試験合格は難しいからなぁ。無理もないかぁ」


「何をおっしゃって」


試験に受からないかもしれない・・・・・・・・・・・・・・のが、怖いんだろ~~???」


"ヒュンッ"


 何か銀色の物が、物凄いスピードで理事長の顔の真横に突っ込んでいった。


"バギィィィ"


 もはや、この世のものとは思えない音が部屋中に鳴り響く。


"パラパラ・・・"


 理事長の真横の壁には、見事な程綺麗な大穴が空いており、美しい青空が見えていた。


 ・・・それでも、理事長には傷一つついていなかった。


 理事長は、大人気なくも勝ち誇ったような顔で相変わらずニマニマと笑っている。


「どうせ、お前に私は殺せない。どうす」


「乗りましょう」


「ん?」


 理事長は、ソルシーの声に首を傾げた。


 ソルシーは、殺気を隠そうともせず、幼女の姿には似つかわしくない声で言った。


「その話、乗って差し上げます。この学園の試験を首席・・で突破して、入学して御覧に入れましょう」


「ほ~・・・」


 この魔法学園は、天才の集まりだ。


 難易度的に言えば、最難関であると断言出来る。


 その中で、主席ともなれば・・・。


 座学は満点、実技はAS(=ALL "S"RANK)でも取らない限りは不可能だ。


「首席、ねぇ・・・。まぁ、出来るんなら」


「馬鹿にしないでいただけますか、物好きさん」


 ソルシーは吐き捨てるように言うと、部屋から出て行った。


「物好き、ねぇ」


 理事長は、クルクルとペンを回しながら呟いた。


 今年の試験希望者リストを見て、小さく一言。


「・・・エールでも、難しいと思うけどねぇ」

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"狂気の終焉魔女"と呼ばれている幼魔女が、入学した魔法学園では問題児として大騒ぎしてます!!! 瑠栄 @kafecocoa

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