ようこそ、空中異世界魔法学園へ

「おい、いたか!?」


「ダメだ、完全にまかれた」


「くっそっ!!」


「いや、まだ魔法解石は反応してねえ。ワープを使ってないなら、まだ希望はある」


「っまぁ、そうだな。早く行くぞ!!」


"ドタバタ・・・"


"―――シーン"


 数人の男達の荒い声が遠のき、夜の暗い裏路地に静寂が訪れる。


「「・・・」」


 ソルシー・エールとペルーズは、目を合わせて頷くと足早に裏路地の奥へと向かう。


 人影も見えず、物音すら聞こえない。


 やがて、煉瓦の行き止まりに当たった。


「ここです」


「・・・冗談?」


 ソルシーは、思わず眉をひそめた。


 隠し扉らしき所も、魔法をかけられた形跡もない。


「いえ、冗談ではないです」


 ソルシーの険しい顔に、ペルーズは少し慌てた。


「この先に、魔法学園があるはずです。迎えが来ると思いますので、あちら側で少し待っていてください」


「・・・"はず"って??」


 ほんの少し警戒態勢を取っているソルシーに、ペルーズは慌てて説明する。


「ここは、正統な入口ではなく、少し危険な入口でして・・・。いわゆる、異世界に繋がる歪みなのです。正当な入口でしたら、安全で申請をして許可をもらえば誰でも通れますが、その許可には時間もかかりますし誰でも許可していただけるというわけでもなく・・・。それに、今回指定されたのはこちらでして。ここは、招待状があれば通れる場所で・・・」


 まぁ、つまりは、裏口である。


 こんなに人が寄り付かない場所にあるという事は、何かから隠しているか。


 もしくは、"歪み"とやらは魔法ではコントロール出来ないものなのか・・・。


 ソルシーは、納得したように頷いた。


「なるほど。それで、今回はペルーズさんはその招待状がないんだ?」


「ええ。関係者と言えど、あちら側で動く方ではないので」


 ペルーズは、『面目ない』と言いながら頬を掻いた。


「とりあえず、ここを通れば良いんだね」


「そうです。私の案内はここまでで」


 そういうと、ペルーズは呆気なく去ってしまった。


 仕事上、人との別れとは慣れているのかもしれない。


「・・・ありがとう」


 ソルシーは、小さくつぶやいて壁を通り抜けた。



* * *



 少しの目眩がした後、暖かな日光が射すのがわかった。


 目を開くと、だんだん慣れて来た。


 そこには、四方八方の青空。


 所々、雲や島までも浮かんでいる。


 目の前には、黒くてとてつもない存在感を放っている大きな学校。


(ここが、魔法学園・・・)


「ようこそ、狂気の終焉魔女様!!お待ちしておりました!!!!」


「!?」


 急に聞こえた声に、思わず飛び上がる。


 急いで周りを見渡すが、誰もいない。


「だ、誰・・・??」


「こちらですよ~!!足元ですよ~!!!」


「足元・・・」


 ソルシーは、言われた通り足元を見た。


 そこには・・・。


「お初にお目にかかります!!魔法学園案内役のジンジャーでございます!!!以後、お見知り置きを〜」


 ・・・まさかのカワウソだった。


「ささ、学園理事長がお待ちです。こちらへ〜」


 カワウソ・・・、もといジンジャーは、ピョンピョン跳ねながら学園の方へ向かって行く。


 ソルシーは、しばらく唖然としていたが、ハッと我に返り、慌ててジンジャーを追って行った。


 その様子を学園の最上階・理事長室から、長い赤髪の女性が見ていた。


「理事長様、終焉魔女様がお着きになられたとのご報告が」


「ああ、知っている」


 理事長と呼ばれたその女性は、おもむろにパイプ煙草に火をつけて一服した。


「・・・今年は、忙しくなりそうだね」

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