第12話 似た者同士
洋館を出てすぐ、私たちと入れ替わるようにして次のチームが入っていく。
「すごいね、ひかりちゃん。クロウも!」
マチ子ちゃんに褒められて、私は、ひとまずほっとした。
「なんとか、みんなの足を引っ張らずに済んでよかったよ」
「足を引っ張るどころか、手を引っ張ってくれた感じだね~」
桃瀬くんも褒めてくれるけど、そんな中、影山くんだけは、悔しそうにしていた。
「結局、お前、できちまうんだな」
影山くんからしてみれば、勉強してないのにテストで満点とか、普段サボってるのにがんばってる子よりできちゃうとか、そういうタイプの子に見えてしまっているのかもしれない。
不愉快なのも当然だ。
全部、クロウのおかげなんだけど……
「まーた、妬んでる。やる気出せって言ったの、かなたなのにねぇ」
「ち、ちが……! ちがわねぇのかもしんねぇけど。ただ……羨ましいだけだ」
それって、私が金星だからかな。
クロウがパートナーだから?
「結局、狐の姿のときは、手抜いてたのか?」
影山くんがクロウに話しかける。
「狐に変化した状態では、あの程度が限界。ひかりが言ってくれたように、あの姿で炎を操るのは苦手でね。風を起こすことならできそうだったが、他の狐同様、直接攻撃するグループにいなくてはならない雰囲気だったから」
あのときクロウは、私を思って空気を読んでくれたみたい。
「しかし……手を抜いたと思われてもしかたない。実際、自分の能力を隠し、実力を発揮しないでいたのだから。悪かった」
私の肩から飛び降りて、鴉天狗の姿に戻ったクロウが、影山くんに頭を下げる。
「かなた、天狗様に謝られてる」
「かなたも頭を下げろ! はやく!」
影山くんの肩に乗ったネネとココが、慌てた様子で影山くんの頭をぺちぺち叩く。
「な、なんで俺が……」
そう言いつつも、影山くんは、ネネとココに促されるようにして、小さく頭を下げた。
「……別に俺だって、本人が辛いなら無理してやれとか言わねぇし。事情もわかってねぇのに……悪かった」
クロウは、そんな影山くんを見て、ふっと笑った。
「Cランクの中でも、とてもじゃないが戦力になりそうもない私を見捨てず、他でもない、ひかりを選んでくれた影山には感謝している。選んだ理由は、天狗だからでも、金星だからでもない……だろう?」
「……こいつの耳がいいと思っただけだ。本当に名前だけで受験パスしてやがったら、学校自体、信用できねぇ」
もしかして、それを見極めてくれたのかな。
私の入学は、名前だけじゃないって、わかってもらえたのかも。
「クロウと私ががんばれたのは、影山くんが、強く逃げないって言ってくれたからだよ」
クロウも、私と同意見なのか静かに頷く。
「あんなの言い聞かせてただけだ。ネネとココが大きくなれなかったの、見てただろ」
「あれは、疲れてたのかと……」
「……本当は逃げたくてびびってたのが、こいつらに伝わってたんだろうな」
精神力がパートナーに影響するみたいだし、そういうことだったんだ。
「でも、逃げてもよかったのに……逃げなかったよね」
「逃げれなかっただけだ。昔、逃げて後悔したからな」
もう目をそむけないとか言ってたけど、影山くんにも抱えるものがなにかあるのかもしれない。
だから、受験にも強い思いを持って取り組んできたのかな。
「今後、逃げるか留まるかの判断も、正しくできるようにならないといけないね~」
桃瀬くんが呟く。
「クロウの強さは想定外だったもんね……」
マチ子ちゃんも、逃げずに戦うことが、必ずしも正解じゃないって思ってるみたい。
今回は助かったけど、自分たちの強さをちゃんと理解していないのに立ち向かったことになる。
「……わかってるよ。1人で戦うわけじゃねぇからな」
影山くんは真剣な口調で、まるで自分に言い聞かすみたいに呟いた。
もし1人だったら、影山くんはがんばりすぎちゃったりするのかな。
その辺も含めて、チームの課題かもしれない。
その後、私とクロウは、Aランクになった。
そもそもCランクの子はほとんどいなかったみたいで、チームを組み直さなきゃいけないみたいなことにはならずに済む。
「さて。今日はまた、おにぎりを用意してくれた?」
放課後、いつものベンチで待ってくれていた狐姿のクロウが、私を見あげた。
「持ってきてるよ。お狐様が好きだと思って、持ってきてたんだけど、天狗も、おにぎり好きなの?」
「それは違うね。私が好きなだけ。狐だって、おにぎり嫌いの子もいるだろう」
狐だからとか天狗だからとか関係なく、クロウだから……なんだ。
「クロウはどうして、私とパートナーになってくれたの?」
「天狗なのにって?」
「ううん。クロウが何者であっても、聞いてみたいと思ってた」
クロウは、少女の姿になって私からおにぎりを受け取ると、1口頬張って、それからゆっくり口を開いた。
「……おにぎりがおいしかったから」
「え……」
「天狗として身を晒している間は、おにぎりなどもらえなかったからね」
クロウと出会った頃『低ランクの狐に、わざわざおにぎりをくれるのは、きみくらいかもしれない』って言われたけど、高ランクの天狗におにぎりをあげようなんて考える子も、あまりいないのかもしれない。
「おにぎり、あげてよかった」
「それだけではないよ。私に似たものを感じたから……かな。金星だからと、いろいろ話題にあがっているのを耳にしてね」
「そっか。聞いてたんだ……」
私が言われてるのを聞いて、自分に当てはめちゃってたりしたのかな。
「天狗ならできて当然だと、私もいろいろと言われてきた。妬まれたり、表面上だけ敬うそぶりを見せられたり。もし、ひかりが期待しているのなら悪いが、私は、落ちこぼれの天狗なんだよ」
落ちこぼれ……?
「ますます私と一緒だね。私も、金星の落ちこぼれなの。お兄ちゃんは、1人でも戦えるみたいだけど、私は、あやかしがいないとなにもできなくて。この学校じゃ、たぶんそれがあたり前だから、そんなこと言えないけど」
クロウはなぜか小さく笑いながら、首を横に振った。
「ひかりは、あやかしと仲良くなれるセンスや才能がある。兄は、1人で戦う方が向いている。それだけのこと。私なんかと仲良くなれたのだから、そこは自信を持っていい」
クロウは、レア度星5つの鴉天狗だ。
タブレットで見たけれど、友好度は不明になっていた。
もしかしたら、これまで仲良くしてきたデータが残っていないのかもしれない。
「天狗だからって見られ方、されたくなさそうだったけど……」
「天狗ではなく私とだ。その辺の天狗より、ひねくれている。とはいえ、天狗であることには変わりないからね。ひかりは天狗に選ばれた。それは自信になるだろう。私も、金星のひかりに目をかけてもらえた。そのことを自信にするよ」
「わ、私なんかで……」
「ああ……私と同じことを言ってるね。やっぱり似た者同士だ」
クロウは変化して、おそらく本来の天狗の姿に変化する。
黒い翼に、鋭いくちばし。
団扇をあおぐ姿はなんだか優雅で、高ランクとされる天狗の風格が備わっていた。
「お互いを自信にしていこう」
そう天狗の姿のクロウに手を差し伸べられると、なんだかものすごく誇らしいことをされているように感じた。
「本当に……自信ついちゃいそうだよ」
「それはよかった。さあ、私にも自信を持たせてくれる?」
私は大きく頷いて、差し出された手を握った。
「クロウは私の……金星ひかりの最高のパートナーだよ」
あやかしミッション! 律斗 @litto
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