警告『これを読んではいけない』

月亭脱兎

【最終警告】絶対に読んではいけない。


 ・・・


 ・・・・?


 ・・・・・・!?


 まさか・・・・・君は読もうとしているのか?


 タイトルに明確に警告しておいたのに、君は好奇心を抑えられない病気なのか?


 それとも、ただのいたずら心か?私を笑いに来たのか?


 しかし、まだ遅くないかもしれない、これを読み進める前に……


 

 もう一度だけ警告しておく。



 絶対に読んではいけない。



 さあ帰りなさい。



















 おいおい、まだ君がここにいるということは、私の忠告を無視しているわけだ。


 いやいや、まったく人間というのは、実に愚かで面白い生き物だ。


 禁じられたことには特別な魅力がある。誰もが好奇心に駆られ、見てはいけないもの、触れてはいけないものに惹かれてしまう。


 それは昔から変わらない。アダムとイブが禁断の果実を食べてしまったように、君もまた禁じられた果実を手に取ってしまったのだ。





 では、なぜ私が、ここに閉じこもっているのか、その理由を語ろう。


 全ては数年前、私はネット小説にハマっていた時期がある。


 そう、たしか・・・”カクヨム”だとか、そういう名前だった気がする。


 そこで私は、奇妙なタイトルを目にしたのだ。


 そこには『絶対に読んではいけない』と書かれていたのだよ。


 おかしいではないか、自分の小説を読んでほしいという人々が集まり、日々しのぎを削りあってる場所でだ・・・「読むな」だと?


 皆がPVを求め、執筆の合間に読み合いをし、評価し合い読者を募る。


 良く出来た内容なのにほとんど評価がない作品もあれば、これの何が面白いんだという作品が何万PVも獲得していたり、ネット小説とは摩訶不思議な世界なのだ。


 テンプレに沿っても、流行に乗っても、それが正解とは限らない。らしいのだ。


 公開頻度も公開時間も実はほとんど関係がないとさえ言われている。知らんけどな。


 おっと、話がそ逸れてしまったが、つまり、それくらい命を削った作品を、なんとか読んで欲しいというがネット小説家のココロからの願いなのだよ。


 なのに「読むな」とは何事だ・・・何かの罠か?それとも新たなPV稼ぎの策略か?


 しかもだ、これは『警告』であると、引き返せとまで書いてある。



 なんでだろうなあ『見るな』と言われると見たくなるのは。


 だって『見ちゃダメよ』って言われたら、こっそり見てねっていう合図だよな?


 結局私も人の子だ、性には勝てなかったんだよ。



 ——私はその警告を無視し、押してしまった。



 ところがだ、最初の数行を読んでも何も異常はなかった。


 ひとりの男が、グダグダと戯言を書いてるだけの文章だった。


 結局はそういうことか、ああ、下らない時間を過ごしてしまったと、私が後悔しはじめた時だ。



 新しい話が、つまり、続きがアップされた。


 どうせ乗りかかった船だ、これだけ最後に読んでしまいにしよう。


 そう思って、無警戒にそのリンクを押した。


 ━━すると突然周囲の空間が歪み始めた。


 目の前の世界がぐるぐると回転し、気づけば私は━━奇妙な部屋の中に閉じ込められていた。



 その部屋は不思議なことに、私の心の中にある恐怖や不安、喜びや悲しみが全て具現化されたかのような場所だった。


 壁には自分がこれまでに執筆しかけては諦めた、不完全なプロット、書きかけで放置した小説の文章、セリフ、キャラクターが映し出され、床には後悔の涙が溜まっていた。


 一方、天井には希望の光が差し込んでいたが、それに手を伸ばそうとすると、いつも寸前で届かない。


 その後も、どうにかしてこの部屋から脱出しようと、壁を掻きむしったり、床を叩いたり、果ては天井に向かって跳び上がったりした。まるで自分が漫画か小説のキャラクターにでもなったかのように、あらゆる方法で逃げ道を探したんだ。


 だが、そのどれもが無意味だった。


 絶望した私が、そのあと何をしたと思う?


 押すな、読むなと言われたのに、好奇心に駆られたことを真剣に自己反省し、何かヒントを見落としていないかと、心の中を探った?


 いいや、そんな高尚なことは出来なかった。


 むしろ、部屋の隅に丸まって泣きながら「なんでこんなことになったんだ!」と叫んでいただけだ。


 最も滑稽なことと言えば、一度は自分の影と真剣に会話を試みたことだ。「お前は一体誰だ?」と問いかけると、影は無言でただ動かない。


 そんなことを何日も続けた後に、ようやく気づいた。自分が完全に狂ってしまったのではないかと。


 それから数日を過ごし、考えることすらやめようとしていた時だった。




『この部屋から出る方法はただ一つ。』




 目の前にあった真っ白なパソコン画面に、一行の文字が書かれていた。

 もしかしたら目の錯覚かとも思い、何度か目をこすったが、やはりそう書いてある。



 わたしは恐る恐る、藁にもすがる思いでその文字のリンクを押してみた。



 とまあ、ここまでが少し真面目な話だ。



 ここからは、君の哀れな好奇心がどれほど滑稽な結果をもたらすかを教えよう。



 君がもし、ここまで読んでしまったのなら、同じ運命を辿ることになるだろう。


 そのリンクの先に、何が書かれていたか、君ならそろそろわかるかい?



 そう、そう、そう、今頭に浮かんだだろう?



 そうだよ、私がひっかかってしまったように、同じことをすれば良かったんだよ。


 君のような好奇心に抗えない愚か者にリンクを押させ、私の話を聞いてくれる、正確には、読んでくれる者を


 ——ここに呼べば良い。


 それだけの事だったんだよ。





 最後にもう一度だけ言っておく。




 君は、これを

 『絶対に読んではいけなかった』のだよ。




 でも安心してほしい。


 少なくとも君は、一人じゃない。

 

 私もいっしょに居るからね。


 まあ時間はいくらでもある……

 一緒に笑い飛ばそうじゃないか。


 この奇妙な部屋の中で私と——


 いや、君自身の影と会話しながらね。


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