夜への道すがら。

@sa-ti

第1話

...もう忘れてしまいたいほど溢れてしまった記憶を辿る。


湖までの道がいつもよりやけに明るく、ふと空を見上げてみると

星が降ってきそうな、そんな夜だった。

水辺に腰を下ろし、ゆっくりと呼吸をする。

目の前にはそっくりそのまま今日の夜空が移り澄んでいて、そっと星をすくうと、まるで自分が天の神であるウーラノスになったような気分だった。

手から星がすり抜け、私は感傷に浸る。

じっと地の星を眺め気ままに願い事をしていると、流れ星が空を翔け、湖にも星が降ってきた。

夜が私に話しかけるようにそっと水面をつついた気がした。

ああ、そういえば彼女に出会ったのもこんな美しい星夜の日だった。


あの日は80年に一度やってくる太陽が眠り夜が世界を満たす日で、いつも以上に空が美しかった。

湖に映し出された流れ星を、病気がちで家から出られない母にも見せてあげたいと星が落ちた場所へと駆ける。

小さな足では進みが遅く、とても長い時間走ったように思う。

やっとのことでたどり着くとそこには落ちたはずの星は無く、私はただ悲しかった。

その場に座り込んで泣いていると、10代後半くらいの女の子が水面を揺らし、静かに湖から現れ、

「どうしたの?」と声をかけてくれた。

「星が取れない」

と意味の分からない理由で泣いているにも関わらず彼女は愛おしいものを見るような表情をして、湖に映る光を掴んでキラキラ光るなにかを取り出した。

今思えば、彼女も同じような経験をしたからこそ私が泣いていた理由が分かったのかもしれない。

「泣かないで...これ、あげるね」

と、彼女の白い手から私の手のひらに乗せられたそれはただの石にも見えるが、月の光にかざすと太陽のように温かく輝いた。


それから私たちは長い時間語らった。

そうは言っても私は幼かったので、きっと支離滅裂な話だっただろうに、彼女は宝物を見るような優しい目で私をまっすぐに見つめ話を聞いてくれた。

夜はどんどん深くなりやがて大人がいなくなった私を探しに来た。

あの少女は「またね」と手をひらひらさせまた夜を映す美しい水の中へ帰って行った。


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