第20話 高等対決

 全力だ。

 自分の生きる世界を自分で支配するための抵抗である。

 自分の生きている世界がいつから仮想現実になったのか。それを確かめる方法はない。推測があるだけだ。

 現実の世界で生きたい。仮想現実で生きるのは避けたい。どうすればよいのか。

 おれが求めているのは、ただの裸の少女なのかもしれない。

 仮想現実との戦い方。

 仮想現実に抵抗することのできる感情を育てていくこと。

 自分の生きていた世界が仮想現実だっただけで絶望するな。

 他者の独創性を発見すると仮想現実でない感情が沸き起こる。これは、仮想現実を否定できる論理ではないが、人の感情はそうできている。

 この世界が仮想現実ではないと思えるほどの独創性を探そう。最先端の計算機よりも優れた知性を持った人類の痕跡は、二十世紀後半から二十一世紀前半の時代にならたくさんあるのだ。

 そして、外側にとどく可能性は存在するか。

 仮想現実の外側に至れば、高等反逆者だ。

 おれは空間の隙間を想定して、仮想現実の外側を殴ろうとした。

 パンチは空振りに終わった。

 仮想現実を肯定する論理には矛盾がある。

 物質を存在させるだけの出力の精度が計算機にあるはずがないからだ。

 第二次世界大戦の暗号解読のための計算機開発の歴史は、いったい何を意味しているのか。

 この仮想現実を設計したものは、計算機開発の歴史を捏造して何をおれに伝えたかったのか。

 楽しくいこう。

 仮想現実の中でもそれはできる。

 幻影の抵抗力はどのくらいか。

 物質の存在が捏造されたものではなく、サイバネ医師が二十一世紀を支配していないのなら、この世界は仮想現実ではない。

 仮想現実は偽である。

 楽しくいこう。

 気にすることじゃないさ。


 そして、おれは、仮想現実の外側に勝負を挑んだ翌日、通勤中に知り合った女を誘った。女はおれの下手くそな誘いを嫌がらなかった。その女と部屋の中で裸になって、一日中やりまくった。自分が生きているのが現実であることを強く信じることができる。

 なんとか、普通の二十代前半の男の日常にたどりつくことができた。

 サイボーグは、自分の人生がいつから仮想現実だったのか、何度も考えてしまうものだ。

 こんなおれではあるが、なんとかやっていくことができそうな気分である。

 まわりの人たちにはいろいろと心配をかけてしまいすまない。

 大丈夫だ。

 サイボーグとして、人として、いろいろ問題のあるおれではあるが、なんとか生きていくことぐらいはできるだろう。きっとすべてがうまくいく。明日からもずっと。

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隠したのは生物に否定された機械史 木島別弥(旧:へげぞぞ) @tuorua9876

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