両岸の自動球遊機
加賀倉 創作
両岸の自動球遊機
〈ギャラクシーチャンス!〉
玉を
それは
目の前の液晶
天井に埋め込まれたやけに多い照明から放たれる白光。
四方八方からの光が目に
夥しく立ち
ガラスの向こう側で、
最近、
眼前で大暴れする玉が全て、
僕は、半球型の取手を握る己が右手を
各指の第三
小振りな椅子に腰掛けて初めてこの角度から見た指の毛は
ある
酒の量も煙草の量も
細い四肢を
日々何の
最早慣れの
〈右打ちをしないでください!〉
腹立つほどに麗しい
僕は
慌てて液晶
左から順に數字が下りる。
『7』、『7』と
さらに三つ目の『7』が下りたのを僕の目は確かに捉えた。
〈
この上無い高揚感溢れる
それが大
が、直後……
僕の目の前の箱は、
液晶
私が待ち侘びていた『7』が、深い闇に吸い込まれてしまった。
右側の闇と
「チッ……ついてないなぁ」
思わず言葉が溢れる。
僕は煙草を求めて、上着の|衣嚢〈ポケット〉を
が、無い。
不運は立て
無いとは知りながら、
やはり、無い。
〈聞こえますか?〉
聞き
なんと
これが
彼女の
僕は確信した。
液晶
頭の中に描いた通りの、
⭐︎
⭐︎
⭐︎
七時の目覚め。
七時と言っても、午後七時。
私の夜は昼で、昼は夜である。
寝台を転げ降りる。
顔も洗わずに、化粧台の前に座る。
鏡はこれでもかという程に汚れている。
指紋、化粧下地の
これから夜職の私にそんな生半可な汚れは通用しない。
鼻がむず痒い。
部屋の掃除や片付けを怠っているせいだろうか。
鼻の頭を擦る。
痒みは治らない。
やや眉間に皺が寄り、自然と目が閉じゆく。
むず痒さは最高潮に達する。
「へっくしょん!」
私は鏡に、一塊の新鮮で麗しい汚れを追加する。
それに一瞬遅れて、勢い余り、鏡に向かって頭突きをかます。
稲妻のような亀裂。
これで何もまともに映らなくなったかと思った矢先。
表面のガラスは、ほんの一欠片も残らず崩れ落ち、銀の
そして、空色の漢服を纏う、精悍な男性が映し出された。
「どうしてあなたが?」
私は思わず言葉を溢す。
なぜ、今更。
もう会わない、いや、もう会えないと思っていたのに。
些細な喧嘩による大きな別れの後、向きになった私は、彼に繋がり得る全てからこの身を遠ざけ、国交を断絶した。
当時、私の生活圏と彼の生活圏は絶妙の距離感で、会いに行こうとしない限りは会わないような位置関係だった。
私は何度か引越したし、彼もそうかもしれないわけで、今では当時以上に離れてしまったかもしれないし、そうでは無いかもしれない。
私の目糞塗れの目に映るのは、生身では無いかもしれないが、確かに彼の姿だ。
彼は一言も喋らない。
ただ、こちらを見つめている。
いや、向こうから私が見えているかどうかさえ怪しいので、実際には見つめられてなどいないのかもしれない。
彼は、夏の夜の河辺の草のように、ほんの少し、ゆらりと揺れるだけ。
彼の表情は、微笑んでいるようにも見えるが、それは私の思い込みかもしれない。
実際に微笑んでいるのか、ただの私の思い込みなのか、その真偽は知りたくもない。
ひょっとすると彼は、地に堕ちた生活をしている私に向かって、私の反撃の手の届かない安全圏から、ほくそ笑んでいるだけなのかもしれない。
いや、そんなふうに悪く考えるのはやめておこう。
私が大好きだった彼の姿を、有り難く拝ませてもらえばいい。
私と彼は、時の流れを忘れて、見つめ合う。
︎ ⭐︎
⭐︎
⭐︎
僕は、彼女とただひたすら見つめ合った後、店の外に出た。
暗い。
何だか一本吸いたい
再び、何も入っていないはずの、全身の
すると、意外なことに僕の手は、左胸の
何の
いや、今この
何千もの
しかしそのいずれよりも、今日という日は貴重な
天を仰ぐ。
人生を賭しても
僕は
星々が束ねられ光の河となり、果てしなく流れていく。
この河は、彼女の元まで
彼女も今、この景色を見ているだろうか。
両岸の自動球遊機 加賀倉 創作 @sousakukagakura
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