面倒ながらも退屈しそうもない旅
それはジュノールに来て一週間程だった時のことだった……。
「クロト、お前達を私おすすめの場所に連れて行ってやる」
腕組みをし、不敵な笑みを浮かべているリリスが突然そう言い放ってきた。
「リリスおすすめの場所……?それってまさか魔族領なのか……?」
「ああ、そうなるな」
魔族領、それは文字通り魔族が支配している領地であり、その範囲は世界の三分の一とまあまあ広い。
「クロト!リリスおすすめの場所だって!行ってみようよっ!」
などと、能天気なことを言っているレイナだが、コイツはわかってるのか……?
魔族領だぞ、魔族領っ!いきなり襲われないとも限らない……!
「待つのだ、リリス。なぜボク達をおすすめという場所に、しかも魔族領へと連れて行こうとするのだ?」
「そうだな、一言で言えば私なりのお前たちへの礼だ。お前たちのおかげで私は海を堪能できた。そのせめてもの礼だ」
サリアの問いに対しリリスは腰に手を当て笑顔で答えた。
そして、指を鳴らすと何もない空間からゲートのようなものが出現した。
「この魔導ゲートを通れば私のおすすめの場所へとすぐに行ける。なに、取って食おうという訳じゃない」
リリスはそう言うとゲートの中へと入っていく。
「どうする、クロト……?」
「そうだな……、せっかくのご招待だ。行ってみようよ……」
「分かったのだ……」
俺達はリリスの後を追ってそのゲートをくぐることにした。
◆◆◆
ゲートを出ると、そこはどこかの城のようだった。
そこはどこかの広間のような場所で、床に天井に壁など、至るところが黒い石で作られた場所だった。
さらに床には赤い絨毯が敷かれ、壁には何か旗のようなものが掲げられている。
天井には辺りを照らす、魔法の光が込められたシャンデリアが吊るされていた。
「ここは一体どこだ……?」
先に入ったはずのリリスの姿が見えない……。
「リリス……?」
「私はここにいる」
レイナが呼ぶと、広間の奥からリリスの声が聞こえる。
良く見ればその広間の奥には玉座があり、そこに誰かが座っていた。
返事があったからリリスだろうか……?いや、違う!
そこに座っている者は黒いロングヘアーなのはリリスと変わらないが、身長が高く、頭に生えている角も大きく禍々しいものが生えている。
身にまとっているものもビキニアーマーではなく、頑強そうな鎧に、漆黒のマントを羽織っていた。
「お前は……、誰だ……?」
俺はそのものに問う……。
「私はリリス、魔王リリスだ」
「な……っ!?」
俺は彼女の言葉に絶句した……!
ただの魔族だと思っていたリリスが魔王……っ!?
と言うことは……、ここは魔王城か……っ!?
「落ち着け、さっきも言った通り取って食おうと言う訳では無い。お前達を私の城に招待したまでだ。」
「以前のリリスと全然違うのだ……。魔力量も半端じゃないのだ……」
「当たり前だ。あの姿はお出かけ用のアバターだからな。これが私の本体だ」
魔王と聞き、俺は思わず身構える……。すると、リリスは険しい顔で俺を見つめてきた。
「クロトやめろ。私はお前たちに危害を加える気はない。だが、お前が先に手を出せば私はお前と戦わなくてはならなくる。私に客人のお前達に対して手を出させるな」
「……わかった」
構えを解くと、リリスの顔が落ち着いたものへと変わった。
「それで、ここへ招待した理由はなんだ?ただ遊びに誘った訳ではないのだろ?」
「流石クロト、良く分かっている。私はお前達に……、特にクロトに提案をするために連れてきたのだ。そのためにはこの本体でなければならないのだ」
「提案……?」
「そうだ、クロト。お前はこの城で暮らさないか?私はお前が割と気に入っている。流石にゴーレムを破壊された時は少しムカッとは来たが……、お前は道端で倒れていた私を助けてくれた。もしよければ私の夫とならないか?もちろんそうなれば人間達との戦いも停戦にむけて話を進めよう」
「だ……、ダメぇぇぇぇぇーーーー……っ!!」
リリスの提案に対し答えたのはなぜか俺ではなくレイナだった。
「レイナ……?」
「ダメっ!クロトは渡さないのっ!あたしのなのっ!!」
レイナは俺の腕にしがみつきリリスを睨みつけていた。
「心配するなレイナ。私の夫となるものは全てが思い通りにできる。一夫多妻も夢ではない。なんならレイナが正妻で私が側室でも構わない。なんならサリアも迎え入れたらどうだ?」
「ぼ、ボクも……、クトロの妻……なのだ……?」
「サリアが望むならだが、どうする?」
「ボクは……、その……」
サリアもまた赤い顔をしながら俺を見つめてくる……。
ヤレヤレ……、何勝手に話を進めているんだ……?
「悪いが断らせてもらう。」
「どうしてだ……?」
「理由はいくつかあるが、まず一つは俺が政治利用されていることが釈然としない。そしてもう一つ、これが重要だ。魔王と結婚したとなれば色々と面倒事が増えそうだ。俺は面倒事は嫌いなんだ。と言うわけで、元の場所へと返してくれ」
「そうか……それは残念だ……」
リリスは残念そうな顔をすると再びゲートを開いてくれた。
そして俺達はそれを通り再び元いた場所へと戻ったのだった。
◆◆◆
「ね、ねえ……。クロトはリリスの提案を受けなくてよかったの……?」
戻ってくるとレイナが俺へと問う。
「さっきも言ったが、俺は政治的に利用されるのはちょっとな……」
「ほう……。なら政治的ではなく、私の魅力でクロトを骨抜きにすれば良い訳だな?」
「……なんでお前がいるんだ?」
声のする方へと向くと、そこには魔王リリスのアバターの姿があった。
本当になんでこいつがいるんだ……?
「く……、リリスまでクロトを狙っている……。あたしももっとアピールしないと……」
レイナが何かブツブツと呟いているようだが、俺には聞こえなかった。
「それよりリリスに聞きたいんだが、なんで俺達を魔王城に呼んだんだ?」
「私がこの姿で魔王だと言ってもお前は信じないだろ?」
「それは確かに……」
「あたしは信じるよ!」
……レイナはもう少し人を疑おうか。
「つまりはそういう事だ。私を魔王と信じてもらうには本体で話すしかなかったんだ。さて、クロト旅に行くぞ!」
なんでリリスが仕切るんだ……?まあいいか……。
「それで、サリアはどうするんだ?」
「も、もちろんボクも行くのだっ!必ずクロトの秘密を突き止めてやるのだ……っ!」
いや、秘密って言われてもそんなの無いんだけどな……。
「それより、私もクロトに聞きたいのだが、人間はドスケベだというのは本当なのか?」
「……どういう事だ?」
「聞いた話では人間は年中発情していると言うではないか」
「どこ情報だそれは……。」
「それを確かめるために宿屋で検証してみようではないか!」
「く、クロト……!あたしも発情期じゃなくてもしてもいいんだからね……っ!?」
レイナは何を張り合っているんだ……?
「ぼ、ボクも手を出してくれてもいいんのだ……。勘違いしてもらっては困るので言っておくけど、クロトの秘密を暴くためなのだ……!」
サリアもまた何を言っているんだか……。
勇者パーティーを追放された俺は、魔王を仲間に加え、面倒ながらも退屈しそうもない旅が始まろうとしているのだった……。
完
勇者パーティーを追放された闇魔導士は面倒事を避けたい ノン・タロー @nyan178
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