第20話 武勇伝?
朝起きて茶の間へ行くとタケル様がもう起きていた。
「おはようございます」
「おはよう」
バサッと新聞を広げながら寛いでいる大人なタケル様。浴衣を着流し髪は下ろしている。
うっ、朝から神々しいな。うちの所帯染みた茶の間とまぶしすぎるイケメンのギャップ。茶の間が違う世界みたいに見える。
「タケル様って着物派なんですか?」
「ん? あぁ、
「お爺ちゃんの… どうりでちょっとジジくさいと思ったら。そうだ! やっぱり服を買いましょうタケル様。大人のタケル様もちびっこタケル様のも。今時、着物でずっといる人は少ないので。何より、お爺ちゃんの服だとタケル様の魅力が半減します」
ワクワク。イケメンの服選び! 楽しいよね、絶対。だって、何でも似合いそうだし。
「ん? そうか? まぁ好きにせい。一つだけ注文をつけるなら派手なのは好かんからの。後は黒色が好きじゃ」
ははは、結構注文あるじゃん。でも、言ってくれると助かるよね。よしよし、メモメモ。
「了解しました! やった~。テンション上がる~。って事で、朝の用意しますね~。ふふふ~ん」
私はご機嫌で台所へ向かう。綾人さんが帰ったので、今日からまた私が主婦に返り咲きだ。しばらくして、お爺ちゃんも神社の方から帰って来た。朝の御勤めをしていたんだろう。
「おはようございます、タケル様。よく寝られましたか?」
「あぁ。一日だけじゃからな、茶の間でもぐっすり寝られたぞ」
「それはそれは。今日中に部屋を用意しますので」
「うむ。そう言えば、来週、猿田の爺さん家へ呼ばれておるんじゃが、建美も連れて行ってよいか?」
「はい。しかし、何用でしょうか?」
「ん? ちとな。ただの顔合わせじゃ。我らも集まるのは久方ぶりじゃしな。市姫も来る予定じゃ」
タケル様、うまく誤魔化したな〜。
「そうですか。わかりました」
私は台所でタケル様とお爺ちゃんの会話を聞いていた。
そっか、来週早速集まるんだ。って事は、それまでに服買わなきゃね!
「おはようお爺ちゃん。ちょっと相談なんだけど、土曜日にアウトレットへ連れて行ってくれない?」
「ん? 買い物か?」
「うん。タケル様の服を買おうかと思って」
「服?
「え~、だって… せっかくこっちで生活するんだし。そんなに量は買わないから、お願い!」
「そうか? タケル様もいいんですか、お召し物が洋服でも?」
「あぁ、建美が楽しそうじゃしな。我は服なぞ何でもいいから好きにすればいい」
「やった~!」
私は朝食をちゃぶ台に並べる。さぁさぁ、ご飯だよ~。
「「「いただきます」」」
「そうじゃ、建美。学校が終わったら言の葉の練習をしようか?」
「え? でも、あと二週間は文化祭の準備があるから難しいですね。それに数日休んでしまって迷惑もかけましたし…」
「あ~、忘れておった。祭りがあるんじゃったな。では修行はその祭りが終わってからにするか。それまでは、そうじゃな~。建美、お前はすぐ筋肉痛になるからの、基礎体力をつける為に運動をせい。毎日、スティックを百回振れ」
「百回! 今時そんなスポ根! ちょっと多過ぎません?」
「百回なんぞ、直ぐじゃ。建造は毎朝、竹刀を千回は振っておるぞ」
げっ。お爺ちゃんと比べないで欲しいな…。
「てか、私って留守護代理の御役目は終わったんですよね? 修行しなくて良くなくないですか?」
「御役目は終わっても、近い将来は建造に代わって神社を継ぐのじゃろう? 今から始めても問題ない」
「は~、まぁ~そうですけど… てか留守護するなんて決めてないし…」
「遅かれ早かれ、どの道、修行はせねばならん。少しづつでも始めた方が後が楽じゃぞ?」
「わかりました… やりますぅ」
私は渋々、筋トレをする事を了承した。百回って、出来るかな。
「建美、何事も経験だ。がんばれ」
「は~い、お爺ちゃん。って、私の武器ってスティックで確定なの? 今回だけじゃなかったっけ?」
「短い間じゃったが、使い慣れた物の方が良い。それにあれは結構使い勝手が良かったしな」
タケル様はスティック派なの?
「え~、ダサい… もっと、こう、何か無いんでしょうか?」
「ん? では、建造のように刀にするか? どうせなら我とも相性がいい武器がいいしな」
刀か… お爺ちゃんのって日本刀だよね。
「ちょっと考えます。しばらくはスティックで我慢します。どうせ使う機会はないでしょうから」
「あぁ、ま~色々試すのも良いじゃろ。武器と言えば、我が生前使っておった刀があってな。今は尾張だったか? いや、
「何で今持ってないんですか? 一緒に埋葬? 奉納? されなかったとかですか?」
「いや… 言い難いんじゃが、生前、酒の席でな、そこに忘れて来てしまってな。ははははは。その後、ある山の主を退治せねばならんかったのじゃが、結局刀がないしで対峙しても勝てなんだな~、ははは、懐かしいのう」
は? 酔っ払って忘れちゃったって事? タケル様って結構おっちょこちょい?
「山の主って何だったんですか? 大昔だし、神話とかなら龍とか?」
「ん? あぁ、デカイ白い猪じゃ。龍は、市姫んとこじゃな」
デカイ白い猪って、ま、まさかのおっ◯と主様!?
て、市姫、何気にすごいな。龍か… 猪よりかっこいい。いいな~。
「龍って居たんだ!!! って、タケル様、その白猪ってまだ生きてますか?」
「あぁ、多分。元々、其奴はそこの山神だったんじゃ。呼べば来るんじゃないか? 一応、我の守護する土地におるしな」
「え!!! どこ? どこです? (おっ◯と主様が)見たい!」
「伊吹の山じゃ」
遠っ!
「あはは。また今度でいいです。ちょっと遠いかな~なんて。それって、以前言っていたタケル様の眷属に属するんでしょうか? いや、勝負に勝ってないから友達? ん?」
「友か、ははは。彼奴が聞いたら怒ってくるぞ。そうじゃな~、同じ神の同志とでもしておこうかの。彼奴のおかげで伊吹の山周辺は気にせんでいいしな」
「へ~、守って下さってるんですね」
良い猪じゃん。
「あぁ、我はまだ人だった頃、恐れ多くもその山神を相手にしようとしていたんじゃ… 若気の至りじゃな。建美も気をつけるんじゃぞ」
いやいや、神様に喧嘩なんか売らないって、普通。
「あはは、はい。てか、その忘れた刀って取りに行くって選択肢はなかったんでしょうか? 元はタケル様の物なんでしょう? やっぱり自分の武器がいいんじゃないんですか?」
「まぁ、そう思った時もあったが… 国宝? とやらになって人間達の警備が厳しくてな。そうそう手出しが出来ん。それに、何千年も前の物じゃから、今じゃ朽ち果てて使い物にならんじゃろ」
…
国宝って。そんな大層な刀なの? 今度調べてみようかな。
「す、すごい刀なんですね… 勉強不足ですみません。軽口叩いてしまって…」
「あはは、よいよい。武器と言うか神器は使う者との相性が一番じゃからな。建造は若い頃より剣道をたしなんでおったから刀がしっくりきたんじゃ。建美もそのうち『これだ』と言うモノが見つかるじゃろうて」
「このまま見つからなくて、やっぱりスティックってなってそう… う~嫌なフラグ~」
「おい、建美! それより早う学校へ行け。遅刻するぞ!」
と、お爺ちゃんは時計を指差しながら私を急かす。私は急いで朝ご飯を食べる。
「そうだった! また、色んなお話を聞かせて下さいね! じゃぁ、いってきま~す」
「あぁ、行って来い」
「気をつけるんだぞ」
〜*〜〜*〜〜*〜〜*〜
「留守護代行編」完結です。
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タケル様と鬼退治 Akila @akilala
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