第2話 呪いをかけたのは
愛している――その言葉に一切の偽りはなく、アルマはただ困惑した。
久しぶりに再会した妹が死霊術を扱えるようになっていて、さらにはそんな告白を受ければ無理もないことだろう。
ただ、アルマは少し視線を逸らして、
「……私はもう死んだ身よ」
「分かっています。姉様の遺体は魔術的に保管して――綺麗な状態にしておいてもらったんです。私が死霊術を会得できたら、生き返らせるために」
「それが間違ったことだと言っているの」
アルマはあえてリーシャに突き放すような態度を示す。
彼女は間違っている――そう理解させるために。
「何が間違っているんですか? 姉様は――若くして亡くなられた。これからもっと、多くの人のために聖騎士として活躍する……そんな姉様のことを、誰だって必要としていたはずです」
「だからといって、人に死霊術を使うことはこの国でも禁じられていることです!」
「大丈夫です――許可は取りましたから」
「……許可を取った?」
アルマは思わず問い返してしまった。
「姉様は王国においても最高戦力――故に、死霊術の対象として保管することを許可する。これは、王国の議会でも認められたことです」
「な……っ」
アルマは言葉を失ってしまった――だが、戦力として保管するという意味合いなら、確かにあり得ないことではない。
王国としても、いざという時に使える戦力としてアルマを必要とする時が来るかもしれない。
「……その許可を取ったのは――」
「私です。ウィンベルク家の当主ですから」
「当主……? 母様や父様は?」
「母様は病に倒れて五年前に。騎士として遠征中に事故に遭い、三年前に亡くなりました――もう、私には姉様しかいません」
「――」
両親がすでに亡くなっているという事実。
アルマにとっては衝撃なことであったが、同時に――リーシャは今、一人なのだ。
「死霊術の適性は私にはなくて、十年も時間がかかってしまいました」
それはそうだろう――ウィンベルク家の人間が得意とするのは火や風といった魔術だ。
死霊術の適性は低く、本来は扱えるはずはない。
それこそ、血の滲むような努力が必要となるだろう。
――リーシャは、それを可能としたのだ。
執念というほかないだろう――髪色が白髪になっているのは、おそらくその反動。
過剰なストレスによって、黒い髪が白く染まってしまっているのだ。
アルマは理解できてしまったから、彼女のことを否定できなくなってしまう。
「――ウィンベルク家をお願いね」
最後に幼かったリーシャと交わした約束。
ウィンベルク家のことを彼女に任せて、アルマは死んだ。
ある意味で、リーシャは正しいことをしている。
当主となった彼女が、王国の役に立つという意味では――アルマという戦力を保持すること以上にないだろう。
アルマの知らない、リーシャの努力――それを否定することはもう、できなくなってしまった。
声を掛けることができなくて――そんなアルマのことを見て、リーシャは微笑みを浮かべる。
「大丈夫ですよ、姉様は何も気にしなくていいんです。王国の許可も取りました。姉様がここにいることを誰も咎めません。ずっと、私と一緒にいましょう? 姉様のことは、私が愛してあげますから」
そう言って、再び口づけをしようとする。
――拒絶することはできたのに、アルマはそれを受け入れてしまった。
だって、リーシャに呪いをかけたのはアルマ自身だから。
聖騎士として活躍して、彼女に憧れの気持ちを抱かせて――呆気なく死んだ。
そんなアルマにリーシャは焦がれていたのだから。
「ん……っ」
声が漏れる――妹が求めているのは、十年という空白を埋めるだけの愛。
孤独になった彼女のことを、アルマは支えなければならないのだ。
――彼女が求める限り。
聖騎士だけど、死霊術で蘇らせてくれた妹がヤンデレになってた 笹塔五郎 @sasacibe
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