聖騎士だけど、死霊術で蘇らせてくれた妹がヤンデレになってた

笹塔五郎

第1話 愛しているから

『風の剣姫』――それが少女、アルマ・ウィンベルクの異名であった。

『レザンベルク王国』にいるわずか六人の聖騎士の一人――十代の少女でありながら、彼女を最強と呼ぶ者も少なくはなかった。

 十七歳という若さでありながら、すでに完成された強さを持っていた彼女は騎士公爵家の令嬢でもある。

 ――そんな彼女が亡くなったのは、もう十年以上前のこと。

 王国の南部で発生した魔物の大量発生――スタンピードである。

 その対応にいち早く当たったのがアルマであったが、彼女はその際の戦いで戦死したとされている。

 ――アルマが大半の魔物を討ち取ったために、王国への被害は最小限に食い止められる結果となったが、彼女の死は当時、多くの者に衝撃を与えることになった。

 まだ十代――騎士とはいえ、大貴族の令嬢が自らを犠牲にして王国を守ったという事実。

 今でも、王国では彼女を英雄視する者は少なからず存在している。


   ***


「――」


 暗闇の中で、誰かの呼ぶ声が聞こえた気がした。

 瞼が重く、目を開けるのも億劫であったが、少女は小さく息を吐き出して、目を開く。

 薄暗い部屋の中――どこかの地下室なのか、少女は視線だけで周囲を確認する。


「ここは……?」

「ウィンベルク家の屋敷の地下室ですよ、姉様」


 耳に声が届いて、少女は視線を向ける。

 ――そこには、赤い瞳をした白髪の少女がいた。

 どこか雰囲気が自分と似ていて、思わず少女は眉を顰める。


「貴女は……」

「リーシャ・ウィンベルク――こう言えば、誰か分かりますか? アルマお姉様」


 そう言われて、少女――アルマは驚きに目を見開いた。


「……リーシャ? え、リーシャって、まさか……!?」

「はい、姉様。あなたのただ一人の妹――リーシャです」


 白髪の少女――リーシャ。

 彼女の言う通り、リーシャという名前の妹は確かにいる。

 七歳になったばかりの、アルマによく懐いていて――とても可愛らしい妹だ。

 だが、アルマは彼女の姿に動揺を隠せないでいる。

 見た目は十五、六――あるいは、アルマと同い年くらいか。

 瞳の色はアルマと同じであるが、彼女も同じ黒髪であったはず――なのに、リーシャを名乗る少女は黒髪だ。

 ただ、雰囲気が自分に似ている――その点の疑問については、確かに彼女がリーシャであるのなら解決する。


「……状況がよく理解できないのだけれど」

「無理もありません。姉様が亡くなってから、もう十年も経っているのですから」

「――」


 その言葉を聞いて、アルマの中に流れ込んできたのは――記憶だった。

 迫りくる魔物の軍勢との戦い。

 いつ終わるが来るのか分からないが、戦い続けたことを覚えている。

 最後はどうなったのだろうか――それは分からないが、リーシャの言葉が本当であるのなら、ここにアルマがいる理由は一つしかない。


「……リーシャ、貴女が私を蘇らせたの?」

「はい、その通りです」


 アルマの言葉に、リーシャが笑顔で答えた。

 死霊術――正確に言えば、完全なる蘇生でない。

 この魔術自体は、一般的に知られているものである。

 ただ、遺体を利用する――この点に関してはやはり、地域によっては忌避している者も少なくはなく、基本的に人間の遺体に対する使用は緊急時を除いて禁止されていることだ。

 ましてや、今のアルマは明確に意思を持っている――亡くなったばかりの状態で死霊術を使えば、このように生前に近い状態とすることも難しくはないが、十年も経っているとまず不可能だ。


「どうして私を? それに、貴女が死霊術を使えるようになるなんて――」


 確認したいことはたくさんあった。

 けれど、アルマの言葉を遮ったのは――リーシャの口づけであった。


「……!?」


 突然のことで驚きを隠せず、アルマは動き動きを止めてしまう。

 そのまま、隙を見たようにリーシャはアルマを押し倒して、やがて唇を離して、


「どうして? 理由なんて一つしかありませんよ――姉様のことを、愛しているからです」


 はっきりと、リーシャはアルマを真っすぐ見つめて言い放った。

 その表情は恍惚としていているように見えて――十年ぶりに再会した妹は、どこか病んでいた。

 

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