僕は写真に映らない

蠱毒 暦

Memory:最初で最後の夏祭り


高校二年生の夏。僕…玉川鑢はなんと、別の部活の後輩の女子に夏祭りに行こうと誘われた。


夜でも、うだるような暑さで待ち合わせの公園のベンチに座り、内心辟易していると誰かのざわめき声が聞こえて僕は席を立った。


「ククッ…どうだ。このアタシの浴衣は!!最高にイカしているだろう?そうだろう??」


「似合ってるけど羅佳奈…浴衣の帯は前に結ぶものじゃないぞ。それに髪飾りはどうした?」


「…無論知っているとも。だがこっちの方がまるで格闘家みたいでカッコいいじゃないか。髪飾りは懐に仕舞っている。つけるのが面倒…いや、我が可憐さはカンストしている故…」


「駄目だ。製作者としてはちゃんと着て欲しいから…ちょっと来い。あそこの茂みとか丁度いいか。僕が着付けを手伝ってやる。」


「っ。じ…自分で出来るさ。少しだけ待っていてくれたまえ…すぐ戻る。」


数分後。彼女のオーダーの元、僕が作った派手な浴衣をちゃんと着て、向日葵の髪飾りをつけた羅佳奈がトイレから戻って来た。


「待たせたな。これでいいだろう?」


「うん。こっちの方が似合ってるよ…羅佳奈。」


「よし。では急ぐぞ友よ。目指すは屋台の全制覇だ!!」


元気にはしゃぐ羅佳奈に右手を握られて、その勢いのままに、人でごった返す屋台へと僕達は向かっていった。


……


僕は祭りは苦手だ。人が多くて歩くだけでも気を遣う。それに…夏は暑いから。だからいつもはクーラーがついた部屋の中で、窓から祭りの光景を眺めていたのだが…


「次は焼きそば…たこ焼きもあるし、りんご飴といった甘味も悪くないが……どうした?我が友。」


「…ぁ。い、いや…何でもない。」


後輩の女子に手を握られているだけで、男はこんなにもドキドキしてしまうものだろうか。分からない…手を繋ぐ事に慣れていないだけか?


僕は『異端審問会』の現会長にして、熟女で未亡人が好きな奴だ。だからきっと慣れてないんだ。そうだろう…僕!?


「突然、自分の顔面殴るなんて…蚊でもいたのか?」


「ああ。とびっきりデカい奴がいてな…羅佳奈も気をつけろよ…まだいる筈だ。」


「っ!?ほ、ほう…だが所詮は蚊。このアタシの権威の前では血液を吸う事は恐れ多くて出来な…足かゆっ。ポリポリ…」


(…ごめんな。今度何か奢ってあげよう。)


僕はそっと目を逸らしていると、落ち着いたのか、いつもの調子で羅佳奈は僕に言ってくる。


「さて、次は何処に…おや?我が友よ。少しここで待っててくれ。」


そう言って、手を離して何処かに行ったかと思えば、すぐに誰かを連れて戻って来た。


「…えっと、この人……って。」


「よくぞ聞いてくれた。知っての通り、この男は一年生ながらも、本校の生徒会長に抜擢された我が幼馴染…その名は、」


「いいから早く俺を解放しろ。生徒会として、祭りの雰囲気に流されて、過激な事をやらかす生徒を指導する仕事があるが…まずはお前から指導してやろうか?」


「承認しかねるな。最初にわざわざ誘ったのに適当な言い訳をして断られた恨み…今も忘れてはいないぞ。」


「懇切丁寧に説明した筈なんだが…トリ頭め。」


生徒会長は僕に気づいたのか、お辞儀をする。


「このバカに付き合わせてしまい申し訳ない。確か被服部兼、裁縫部の部長でしたか…あなたが二つの部活の部長になったお陰で生徒会の出動数が減り、負担が軽くなりました。」


「いえいえ。そんな…畏まらなくても。」


「全く…アタシに助けを求めれば、すぐに終わる事なのに愚かな奴だ…痛っ!?」


羅佳奈はおでこにデコピンを喰らい、その場でしゃがんでプルプルしている。


「…はぁ。すいませんが花形に捕捉されてしまった以上、監視も兼ねて同行してもよろしいですか?」


「…あ、いいですよ。お仕事…お疲れ様です。」


何故かガッカリしたが、どうしてかホッとした気持ちも混在していて…よく分からないまま3人で祭りを巡る事になった。


……


「前にしてくれたアドバイスのお陰で大繁盛さ!!特別にタダでくれてやる。連れの2人にもだ。」

「…ほら、2人も食べたまえ。たこ焼きは焼きたてが1番美味しいからな。」



「ふくくっ。生徒会長になっても変わらずノーコンか。借りるぞ我が友よ…こう撃つのだ。」

「ゲッ。前よりも難易度上げたのに…まーた取られちまったよ〜」



「お前…本当に褌姿で祭りの中を歩くのをやめろ。一応女子だろ。自分の体をちゃんと大事にだな…」

「はぁ…視姦されて気持ちよかったのに。別にそのまま襲われても…んっ。いい…///」



そうして時間だけが過ぎていく。



「折角だ。写真を取ろうではないか。」


「…じゃあ僕が撮るよ。ほら並んだ並んだ。」


僕は不敵な笑みを浮かべ、横ピースする羅佳奈と嫌そうな顔の生徒会長をスマホで撮り、共有した。


「よし、次は花火の場所取りにでも…」


「…っごめん。僕ちょっと頭が痛いから…じゃ!」


返事も聞かずに、気づけば僕は2人を残し訳も分からずに駆け出していた。



——それが、『嫉妬』であるとも知らずに。


                  了

































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