第2話 掌編・『七夕』


 歌人の、水月みやびは、短冊と筆を手に、七夕にちなんだ短歌を詠もうとしていた。


 みやびは、繊細で唯美主義風エステテイシズムライクの作風で、夙に著名で、伝統のある「馬酔木」という短歌雑誌の同人だった。病弱で、多作ではなかったが、皇室の歌会始に招待されたこともあった。モダンなセンスの語彙や表現にも定評があって、愛好するファンも多いのだった。


 「ねえ、文月とか七月って…なんだか紫色のイメージとダブる…アヤメとかカキツバタのせいかしら?七夕、七月七日にもそういうニュアンスがあるなあ?紫はだいたい高貴な色なのよね。色って不思議。暖色、寒色もあるし、「ブルー」な日、「ピンク」映画もある。情熱は赤だし、荒涼はグレー。多彩、とか極彩色、綺羅綺羅なんて字面にもカラーが被るみたいな気がする…こういうのは共感覚?相貌的思考とも言うらしいけど…」


 今年の七夕は雨が降った。うっとおしい雨音の中で、「荒海や佐渡によこたふ天の川」という芭蕉の俳句が思い浮かんだりした。「五月雨を集めてはやし最上川」というのもあった。こういう雄大な構図は「旅に病んで…」が辞世だった芭蕉ならではだな?とか、月日は百代の過客、と記した時には、芭蕉にとって、旅と人生、そして俳句は切っても切れない三位一体、不可分のものになっていたんだな?とかしみじみ思うのだった。私も旅をしようかな?きっと新境地が開けるだろう?とか、みやびは思った。


 頑是ない子供のころ、おもちゃのような七夕飾りを皆で作った思い出とか想起したり、笹の葉サラサラ~金銀砂子~と、鼻歌を歌ったりしているうちに、歌が一つ浮かび、みやびはそれを達筆で、短冊にさらさらとしたためるのだった。


 金銀の千代紙丁寧に折り重ね星に祈った笹の葉飾り みやび


<了>

 

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七夕 夢美瑠瑠 @joeyasushi

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