残酷さの先にある、鮮烈なる美

 怖い話です。ですがそれ以上に、『美しい話』だと感じてしまいました。
 
 この作品はラストにもゾッとするオチが待っていて、どこまでも人間的な理屈や感覚の通じない、人知を超えた存在が登場します。

 ですが、そんな残酷なはずの存在なのに、なぜかそこに美を感じてしまうという、不思議な魅力が備わっています。


 「面白い話を聞かせて」と命じ、つまらないと容赦なく食い殺すという女性の怪異『ユリ』。
 シェエラザード姫が命を守るために話を語ったのと同様に、主人公も必死になって話を語ろうとします。
 このシチュエーションだけでも十二分に面白いものなのですが、なんといってもこの作品では『敵』であるはずの怪異の魅力が際立っていました。

 雰囲気としては泉鏡花の『高野聖』や『天守物語』なんかを思い出させられるところがあります。『天守物語』に出てくる『夫人』なども、妖怪ならではで、少しでも気に食わないと人間をあっさりと殺してしまう残酷さを持っていました。その一方で、愛してしまった男に対してはとにかく一途で、自分の命すらも軽く捨てられるほどの感覚を持っている。


 つまり、『命』というものにはそこまでの重きを置かない。それよりもずっと価値のある『何か』を持っている。
 そういう人間的感覚を超越した、極端なまでに美や愛などを求めている姿が、神秘的で美しく感じられるものだと思われます。

 この作品に出てくる『ユリ』もまた、『面白い話』というものに命以上の価値を置いているように見えます。
 彼女の見せる『仕打ち』はとても残酷なものですが、それは多分嗜虐とかの感覚で語り切れるものではなく、彼女ならではの美的感覚や、それ以上の『愛』みたいなものが込められているように感じました。


 名作文学の趣きのある、とても素晴らしい作品でした。是非ともこの作品を手に取り、『ユリ』の行動や精神に何を感じるか、それぞれの目で確かめてみてください。

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