第3話

段々と意識が戻って来るのを感じる。あんなデカブツに体を貫かれても、不思議と痛みはないな。しかし、やたらと体が重く感じる。これは何だ?柔らかくて質量のある…


「うわああぁぁぁん!!」


聞き覚えのある声で目覚める、獅子國の声だ。視界がくっきりしてきて状況を把握する。獅子國は泣きながら俺に抱きついて大きな胸を当てている。


「お、おい…大丈夫か…?」


「っ!優人!?ゆうとぉぉお!」


更に強く俺を抱きしめる。痛い痛い骨が折れる。あぁ、痛みを感じるってことは俺は生きてるってことだな。


「良かったっ…このままお前が死んだら…ひぐっ…俺どうしようって…!良かったぁ…」


子供のように大量の涙を流している。随分心配させてしまったみたいだ。


「もう泣くなって、心配かけてごめんな」


「うぅん…生きてて、良かった…」


普段は男勝りな態度を取っている獅子國だが、今は泣いているただの可愛いメス獣人に見える。


「そんなことよりっ!」


危ない忘れるところだった。なぜ俺が助かったのかまだ分かっていないことに気づく。


「獅子國、俺が眠ってる間に何かしてくれたのか?」


「いや…ずっと優人のこと抱きしめてたぞ」


やっと泣き止んだ獅子國はそう言った。特に何もしてないのか…?じゃあなんで俺は生きてるんだ。あれだけ大きかった傷も、今は綺麗に無くなっている。


「獅子國、お前ってもしかして治癒系の力を持ってたりするのか?」


「ふぇっ?」


聞いたことがある。獣人の中でもごく稀に、人の傷を癒す力をもっている獣人がいるということを。それが獅子國だったとしたら色々説明は付く。


「俺はそんな力持ってないぞ、武闘派一筋の脳筋だからな」


「そうか…」


「ん…待てよ?」


獅子國は急に考え込む。


「俺が優人を抱きしめてるとき、優人の傷が段々と治っていったんだ。もしかしたら俺が知らないだけで…」


「治癒能力を持っている!?」


考えられないこともない。今まで獅子國は戦いしかしてこなかったのなら、自分に治癒系の力があったとして気づくきっかけは無かっただろう。


「じゃあ、俺の傷を治したのはお前ってことだな?」


「なんだろうな、きっと!」


獅子國はまた泣きながら俺に抱きつく。しっぽをぶんぶん振っているので犬のように見えてしまう。


「何はともあれありがとな、俺を救ってくれて」


「いやこっちのセリフだぜ!優人は命の恩人だ、本当にありがとな!身をていして人を守るとかイケメンしか出来ねぇぞっ」


肘で体をつっついてくる。勝手に体が動いてたので素直には喜べないが、今の一瞬くらいは少しなら自分を誇っても良いだろう。


「これからどうする?一旦家に帰りたいんだが」


「あぁ良いと思うぞ、政府のやつらももう周辺にはいないだろ」


そうして俺達は俺の家に戻ることにした。色々起こって獅子國も疲れてるだろうし、何より俺が休みたい。


しばらく歩いてやっと家に着き、俺達は完全に脱力モードに入っていた。


「あぁ〜疲れたぁ!しっかし優人の家って落ち着くなぁ、俺の好きな匂いがする」


「好きにくつろいでくれよ、今お茶持ってくるから」


「あっ、ありがてぇけどその前に風呂貰って良いか?」


ふ、風呂っっ!!?発育の良いメスが、俺んちの風呂に入るっっっっっ!!!????


「どうした?駄目なら別に良いぞ」


「いやっ大丈夫だ、入ってくれて構わない…」


「そだっ、優人も一緒に入ろうぜ!」


!!!!???待ってもう無理!心臓保たない!!


「なっなんで俺を誘うんだ!」


「いやなんとなく、つうか俺らどっちも汚れてるし、一刻も早く綺麗になりたいだろ?」


それはそうなんだが色々と問題がありすぎる。どうするべきか、でもこんな機会滅多に無いぞ。むちむちなメス獣人と風呂に入れるんだぞ!?


「よし分かった、俺も入る!!」


「おぉ、じゃ風呂行こうぜ〜」


俺は獅子國に風呂を案内して、獅子國は手前で服を脱ぎ始める。


やべぇっ、こいつ恥じらいがないのか!?堂々と脱ぎすぎだろっ見えちまうぞっっっっ


「…なぁ、あんまこっち見んなよ?流石に恥ずかしいんだからさ…」


しっかり照れてた!エロっっっっ!!!


「優人も脱げよ、俺ばっかり恥ずかしいって!」


「お、おう」


俺は緊張しながらも服を脱ぎ始め、全裸になる。


「す、すげぇな、横目で見てもオスらしく逞しい体だ。なんかその…やなんでも無いっ」


獅子國はすっかりただのメス獣人になっている。照れてるのが可愛いと油断していると俺の俺が大きくなりかねないから危ない。


「と、とりあえず入ろうぜ!」


獅子國にシャワーを譲り、俺は後ろで獅子國の背中を眺めている。いや、正確にはおしりを眺めていた。


「気持ちぃ〜♪シャワーなんて久々に浴びたわぁ」


「そりゃ良かったよ…体洗おうか?」


「っ!!?」


首がもげる勢いでこちらを振り向く。流石に動揺してるな…欲望に忠実になりすぎた。だって仕方ないだるぉっ!触りてぇじゃん、メスの体!!!


「ん、んぅ〜…良いけど、優しく洗ってくれよ?」


マジか、良いのか、洗って。


「じゃ、じゃあ背中から洗うぞ…」


手を泡立てて獅子國の背中を洗い始める。少し俺の手が触れる度に獅子國は過度に反応している。感じてる…?いやいや何を考えてる俺っ


「痛くないよな?」


「おう、なんだったらもうちょい強くしてほしいぐらい…」

獅子國の望みどおり俺は少し強く背中を洗う。


「ひゃあっ!」


…まずい、聞いてはいけない声を聞いてしまった。獅子國は恐らくだが顔を真っ赤に染めて恥ずかしがっている。仕方ない、あんな甘美な声を聞かれてしまっては流石の獅子國も堂々としていられないだろう。


「も、もうだいじょぶだからっ、後は俺が洗うから…」


気まずくなったのだろう、急いで獅子國は自分で体を洗い始める。くちゅくちゅと音を立てて洗う時は俺は耳を塞いだ。


最後にシャワーで流した獅子國の毛は艶々になっていた。


「終わったから使って良いぞ、ほら」


獅子國から石鹸を渡される。…なんかいつもよりいい匂いがするような。


手で泡立てて体を洗っていると獅子國が後ろでうろうろし始める。


「なぁ…背中洗ってやろうか?」


「えっ良いのか?」


「俺洗ってもらったのにお返ししないってのはあれかなって思ってさ」


獅子國に背中を洗われる…断る理由はないっ!


獅子國は泡で俺の背中を洗い始める。


「すげぇなオスの体って、どこ触っても硬ぇし背中がでっけぇな!」


興味津々の様子で俺の体を洗っている。さっきまでのいやらしい雰囲気はお湯と一緒に流されていた。


「わっ!」


むにゅん。


「…???」


獅子國は泡で滑って俺の背中に倒れてきたらしい。じゃあ、この背中の柔らかい感触は…




胸っっっっっ!!!!!!!!!!


「あっあわわ!悪ぃ!す、滑って倒れて、あっ、あぁあっっっ!!」


獅子國は酷く動揺している。俺も動揺している。今日2度目の柔らかい感触は慣れるはずもなく、俺の俺を隠すのに必死だった。


「おっ俺こそ悪かった!気づいて支えてやれてれば、あっでもそしたら胸を触ることに…」


俺の反応はしっかり童貞だった。我ながら恥ずかしいが、今1番恥ずかしいのは間違いなく獅子國だろう。


より気まづくなったこの雰囲気は元に戻るのだろうか。そして俺の俺は保つのだろうか。

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