第4話

獅子國と俺は風呂を上がり各々着替えていた。


「悪ぃな、そんなボロいパーカーしかなくて」


「いや全然!むしろ優人の匂いがして落ち着くわ♪」


獅子國はすっかりいつもの勢いを取り戻したが、俺は背中に残る柔らかい感触を忘れられずにいた。それに今の獅子國はノーパンだ、俺は常に興奮していた。


「今日はもう遅いから泊まってけよ」


「えっ良いのか!やったぜぇ!これでまだ優人と一緒にいられる〜」


知らないうちに随分と懐かれていたみたいだな。


「腹減っただろ?何か作ってやるよ」


台所に向かうと獅子國が俺の服を掴む。


「俺にも手伝わせてくれよ!優人と一緒に料理してみてぇんだ!」


可愛いやつだな、獅子國がずっとこの家にいてくれたらどんなに嬉しいか。


「俺カレーだけなら作れるぞ!」


俺達はわいわいしながらカレーを作り始める。誰かと一緒に料理をしたことなんて無かったから、料理がこんなに楽しいということも知らなかった。


「出来たっ!」


しばらくして美味そうなカレーが出来上がった。白い湯気が立っていて、食欲をそそる香りが部屋中に漂っている。


「いっただきまぁす!」


獅子國は可愛い鳴き声を出しながらカレーにがっついている。俺も食べようとしたところで、手が止まった。


「ん、どした?」


「これもふもふの獅子國が作ったんだよな…」


「だぁいじょうぶ、毛なんて入ってねぇよぉ!」


心が読まれていたか。失礼かもしれないが許してほしい。全身もっふもふの獣人が料理をしたのかと思うと、毛が入っていないか心配になるのも無理はないだろう。


「獣人のこともっと知っておくべきだぞ!俺達の体毛は絶対に抜けない。毛根が強靭だからまず抜けることなんてねぇんだよ」


獅子國は自分の毛を引っ張って抜けないことを証明する。これなら安心して食べれそうだ。


俺もカレーを口いっぱいに頬張る。美味い。一緒に作ったからか、俺の作るカレーとは一味違った風味がして面白い。


食べ終わり食器を洗っていると、獅子國が体を寄せてくる。もふもふの毛並みを服越しに感じると同時にいい匂いがする。


「優人、今日はほんとに色々ありがとな。感謝してもし切れねぇよ!」


獅子國はそういうと、後ろから優しく俺を抱きしめてくる。今日3度目の柔らかい感触、相変わらず緊張はしているが、何とか五感に情報が入ってくる。


獅子國の体温、吐息、しっぽの揺れる音、ここまで近づくと鼓動も聞こえてきて、何故か俺達の心音は同じタイミングで鳴っていた。


「…俺も感謝してるぞ、獅子國。お前と会えて良かった。」


「みずくせぇなぁ!出会いなんかにいちいち感謝してたら、これから先感謝が追いつかなくなるぞ!」


「これから先?」


「うん、俺、優人と一緒に生きて行きたいんだ。言い方重いかもしれないけど、確かにそう思ってる。…駄目か?」


背後から聞こえてくる声が少し悲しい声色になっていくのを感じる。そんなに悲しい声を出さないでくれ、だって。


「良いに決まってるだろ、俺もそう言いたかったんだ」


俺は獅子國に向き直り、ぎゅっと抱きしめる。


「ゆ、ゆうとぉ…!」


獅子國はまた泣きながら俺を抱きしめる。こうして抱き合ってると、獅子國の体は案外小さいことに気づく。


俺達は歯を磨いて布団を用意して、寝る準備をする。獅子國は横になりながら俺に言う。


「これからよろしくな、優人!」


その獅子國の笑顔は、間違いなく今までで1番輝いていた。

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獣性 ていぽん @teipon475

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