七夕

清明

第1話

「願い事が多すぎると思うの」

織姫はふぅとため息をついた。

「私たち、一年に一回しか会えないわけじゃない?それなのに下々の人たちは何でそれに合わせて願い事をするのかしら。おかげで短冊に目を通すだけで精一杯よ、こちとらはヨォー!」

文句を言っていたら徐々にテンションが上がってきたようだ。

「落ち着いて。皆が僕たちのことを忘れずに毎年願ってくれるのはありがたいことじゃないか」

彦星はアワアワと織姫を宥める。

「そうだけどさぁーッ!限度というモノがあるでしょ!知らないわよ!世界平和の実現方法なんて!」

織姫は手に持っていた短冊を不可の箱に投げ捨てた。

「まぁ、僕ら機織りと牛飼いだしね……あ、これは健康祈願かぁ。バランスの取れた食事と運動をしてもらうしかないな……」

不可の箱へ。

「こちとら早くイチャコラしたいのに!何なの!嫌がらせ?」

またしても短冊は不可の箱へ。

「一応こちらに送ってもらう前に厳選してもらっているらしいけど、それでもこの量だしね……」

彦星の視線の先にはまだ片付いていない段ボール箱が山と積まれていた。

「本当に厳選しているのかしら?私たちに出来る範囲を超えている願い事ばかりなんですけど!」

不可。

「いやぁ、そこは流石に厳選していると信じたい。あ、これは?習字が上手くなりたいって」

彦星が織姫に短冊を渡す。

「まぁー!!これよこれ!こういうのよ!字の感じからしたら女の子かしら?うんうん、これは可。絶対可よ。お姉さんに任せなさい、上達させてあげるわ!」

織姫は短冊を両手に挟み、静かに祝詞をあげてから可の箱に入れた。

可の箱にはまだ短冊が数枚しか入っていなかった。

「うーん……私たちに出来ることが限られているとはいえ、このペースでいいのかしら?」

彦星も祝詞をあげてから短冊を可の箱に入れる。

「そりゃ、出来ることなら全部の願いを叶えたいけどね。でも結局、僕らは僕らに出来ることを精一杯やるしかないのさ」

織姫は口を尖らせる。

「それはそうだけどさぁー……そういえば、さっきの短冊の願い事なんだったの?」

彦星は未処理の箱から短冊を取り出しつつ答える。

「ん?僕がさっき叶えた願い事?サッカーが上手くなりますように、だって」

織姫がうんうんと頷く。

「いいねぇー、そういうの。そういうのがいいのよ」

彦星は短冊を不可の箱へ入れる。

「よーし、こっちは終わった。次の段ボール箱開けるね」

彦星が段ボール箱を開け、数枚の短冊を取り出す。

「あー、この辺世界平和系が固まってそう。本当に厳選しているのかこれ……?」

織姫も短冊を数枚取り出す。

「うわ、ほんとだ。こんなもん不可よ不可!」

ばさーッと豪快に短冊を不可の箱へ投げ入れる。

「大統領になれますように……これはどうなんだ?勉学を頑張ってもらえればいいのかな」

彦星が首を傾げる。

「貸して。社会の勉強を頑張ってもらえればいいでしょ。可ね、可」

織姫が祝詞をあげる。

「ふー。よし、サクサク片付けていくよ。ほら、次の短冊渡して」

彦星がニコニコ笑いながら短冊を織姫に渡す。

「何笑っているのよ?」

受け取った短冊をチラッと眺めて即座に不可の箱へ投げ入れる。

「いやぁ、また今年も変わらない君を見れて嬉しいなって」

織姫の動きが止まる。

「……私だって、貴方の笑顔が見れて嬉しい」

彦星はより一層笑顔になり、織姫はより一層にぎやかになったとさ。

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七夕 清明 @kiyoaki2024

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