獣性

ていぽん

プロローグ

2035年、地球温暖化やCO2排出問題は解決されぬまま、政府達は疲れきっていた。なぜなら、世界は混乱に満ちていたからだ。2030年下半期、突如として現れた存在「獣人」。ペットショップにいるペット、動物園にいる動物、世の中にいる動物は全て意思を持つ人形の獣、獣人となっていた。獣人の存在が発見されてからその原因も解明されぬまま早5年。俺はと言うと自堕落な日々を送っていた。イラストレーターの仕事は極めて低収入で、今月のガス代を払うのが精一杯な生活。特に楽しいことも無いし希望も無いので、明後日あたりに死のうと思っているのだが…。ズガガガガガ!!「ん、なんだ…?」銃声だ。ここ最近では最早珍しくもなんともない。どうせまた政府の人間が獣人を捕えているのだろう。世の中の大半は獣人を異形だと罵り、怒り、煙たがっていた。俺は正直獣人は嫌いじゃないしむしろ好きだ。でも、いつだって正しいのは多数派の意見。中には俺のような獣人を救おうとしている人達…例えば"元"動物愛護団体とかもおり、獣人を殺そうとしているやつらをレイシストだのなんだのと罵倒し憤っている。が、団体と言えど所詮はマイノリティに過ぎず、大した効力も無く、今日もこうして政府の手によって獣人が殺されている。最近はSNSも無法地帯になっており、よく獣人をいたぶる動画が流れてくるが、気分が悪い。かと言って俺一人が何か出来る訳もなく、今回もこうして銃声を聞いていることしか出来ない。「キャーーこっち来ないでぇ!!」民間人の悲鳴が聞こえる、お隣の佐々木さんだろうか?何はどうあれ、罪の無い人達が巻き込まれないと良いのだが…。タッタッタッタッタ。「なんだ、足音?」凄いスピードだ、音を聞いているだけで分かる。ダッダッダッダッダ!段々と音が近づいてくる…まさかここに向かっているのか!?なんだ、誰だ、何が目的でこっちにくる、誰だ。思い当たる人物がおらず、自分の顔が青ざめていくのが分かった。「警察か?暗殺者か?……誰なんだよ!」混乱して思わず声をあげる。ガス代の取り立てだろうか、そういえば今月のガス代はまだ払っていなかったような…。「っ!」来る!ドガンッ!!ドアが蹴り飛ばされ、誰かが入ってくる。怖い!ヤバい!!十数年振りにおしっこ漏れそう!!!目の前に人影が現れる。俺より小さいか、腰つきが良い…女か?丁度影になっていてよくは見えないがシルエットは分かる。かなり大きい胸、狼のような耳、もふもふの尻尾に2本の赤い角。「獣人だ。」か、可愛いっ!なんだこの子は。外で政府の人間の荒っぽい声が聞こえる。この子はここに逃げて来たのか?様々な仮説と考察が頭の中で飛び交う中、獣人の子は口を開いた。「頼むっ、少しの間隠れさせてくれ!」強い男らしい口調だが、声は女だ、頭がバグる。この様子だとここに逃げてきたという予想は当たっていそうだ。どうしたものか、何とかして逃がしてやりたいが、きっとここじゃもたない、すぐにやつらに見つかってしまうだろう。「いたぞぉぉお!」とかなんとか考えている内に見つかってしまった!「やっべぇ、行こう!」獣人の子は俺の手を取り窓から飛び出す。その超人的な能力でやつらの上を飛び越えていく。あまりの驚きに手を離してしまいそうだ。「このまま逃げきるぞ!」獣人の子がそういった為、自分の耳を疑った。「な、なんで俺まで―」「道案内が必要だったんだよ、俺この辺の土地勘無いからさ、とっておきの抜け道教えてくれよ!」更に足を早めながらその子は言った。俺の家がどんどん遠くなっていく…「あぁっ、もう何なんだよぉ!!」俺の叫びが青い空にこだまする。どうやら知らない内に、奇妙な物語が始まっていたようだ。

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獣性 ていぽん @teipon475

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