スーパーの短冊
惣山沙樹
スーパーの短冊
七夕といっても特に何の感慨もない日曜日。瞬とスーパーに行った。
「わっ、兄さん。魚の短冊がいつもより安いよ」
「……七夕とかけてんのか?」
即座に食材の値段がわかるようになった辺り、瞬も買い物が上手になってきたな。
せっかくなので魚の短冊を書い、そのまま焼いて魚ステーキにすることにした。
他にもおやつや飲み物をカゴに入れて会計を済ませ、袋二つ分になったので瞬と一つずつ分けて持った。先に歩き出した瞬が、スーパーの出入り口で足を止めて言った。
「兄さん、短冊だ」
「短冊はもういいよ」
「笹に飾る方の短冊だってば」
そこには大きな笹が飾られており、台の上には短冊と油性のマジックペン。「ご自由にお使いください」と書かれていた。
「これ書こうよ兄さん!」
「はぁ? そんな子供みたいなこと……」
「僕はやりたいの!」
「しょうがねぇなぁ」
お願いごとなんて、生きてきてほとんどした覚えがない。欲しいものはいつも自力で手に入れてきた俺だ。まずは先に飾られていた短冊を確認した。
「お金持ちになりたい」
「彼女ができますように」
「阪神タイガース優勝!」
お願いというか煩悩じゃねぇか?
「兄さんも書くんだよ、ほらほら」
瞬は薄紫色の短冊をぴろぴろと振って渡してきた。周りがこんなのだ、俺も適当でいいだろう。
「美味い肉が食べたい」
そう書いた。字だけは母に言われて練習させられていたので割と綺麗な方だと思う。瞬の書いていたオレンジ色の短冊を見ると、連続殺人鬼の犯行声明文みたいなカクカクした字でこう書かれていた。
「兄さんとずっと一緒にいられますように」
書いた本人は得意げだ。しゅん、と名前まで添えている。
「瞬……お前って奴は」
あー今すぐ買い物袋放り投げて抱きしめたい。俺の弟、こんなに可愛かったっけ。
「なぁ瞬、これって一人二枚でもいいよな?」
「わかんないけど……いいんじゃない?」
「もう一枚書く!」
俺はピンク色の短冊を掴んだ。
「弟とずっと一緒にいられますように」
文面は同じだがまあいい。気持ちはこもっている。きちんといおり、と書いた。
「もう、兄さんったら」
「さっ、帰るぞ。魚ダメになっちまう」
「はぁい」
笹が本当に願いを叶えてくれるかどうかはどうでもいい。瞬が書いてくれた内容が全てだ。
スーパーの短冊 惣山沙樹 @saki-souyama
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